措く能わず
今朝、臨時で船をつけた島は特に文明が栄えているわけもなく、人工的なものも見当たらなかった。
船の補強と食料、水の調達にはそれぞれが向かうことになる。
キラーが武器を準備しているとそろそろとカオがやって来た。どうしたと声をかけるともじもじ。
「キラーさんも行かれるんですよね」
「ああ。何か必要なものでもあるのか」
「いえ、とくに…」
またもじもじ。小首を傾げるとカオは顔を上げた。
「その、いってらっしゃいの、チューなど…してみたいと思って」
バキューン!とまるで胸を撃ち抜かれたような感覚にウウと唸りながらキラーは膝から崩れ落ちた。
「キラーさん!どうしましたどこか悪いところでも…」
「いや大丈夫だ問題ない…一瞬撃たれたかと思ったが、クッかわいい…」
「いってらっしゃいは嫌ですか…?」
そんなわけあるか!そんなわけあるか!と歯を食いしばるとキラーは立ち上がりカオを見つめた。
「行ってくる」
と言ってマスクをずらしチューをする。
それが今朝の出来事。
怪我を負った船員を担ぎながら船を目指すキラー。森の中で出会ったデカブツにやられたのだ。倒したデカブツを引き摺りながら枝を踏む。
「こいつの肉は食えるだろうか、キッドに食わせて試してからだな」
「それはまずいんじゃ…」
「そうか、不味いか…」
船員は美味い不味いの話ではないと心の中で突っ込んだ。
キラーは『いってらっしゃい』があったのだから『おかえりなさい』があるはずだと悶々と考えていたのだ。早く帰らないと、船にハニーが待っている、ベストを尽くせ!と早足になる。
「な、なんか元気ですねキラーさん」
キラーの考えなど梅雨知らず、船員Fは運ばれて行った。
「すみませんカオさん手当てしてもらっちゃって」
「いいえ、これくらいのこと」
連れて帰られた船員はすぐにカオに介抱されることになる。
「おかえりなさいが何もなかった…怪我人優先、仕方ないが、キッド…」
「ナヨナヨするな気持ち悪い」
何もなかったキラーはすっかり拗ねて、ヤケ酒をしていた。