甘え1200リットル
「あっ」
白白明け、角を曲がり、出会い頭にドンとぶつかった。キラーはもちろんどうということも無かったようだが、ふらついてしまったカオはキラーに支えられた。
「すみません、気をつけます」
「すまない大丈夫か」
稍あって支えられた腕に包まれたまま、カオはキラーの胸に頭を擦り付けた。キラーはまばたきを2回をすると、甘えられているのだと気がつき、思わずデレッと表情を崩した。
「わたし思わず…すみません、つい」
ついでにチューしようと思い近づいていたキラーを押し退けて離れると、カオはパタパタと誤魔化すように服の皺を払うと早足で去ってしまった。
「グ…」
残念だと唇を噛み締めるキラー。
「存分に甘えてくれたら良いのにって顔してますね」
ぬるっと現れたワイヤーに背筋を凍らせると、咳払いをして気持ちを整える。
「顔なんかわからないだろ。マスクをしているのに」
「キラーさんはわかりやすいですから」
グググとまた唇を噛む。言い返せないのは本当のことを言われているからであり、カオに存分に甘えて欲しいからであり、悔しいがワイヤーは鋭いところがあるからである。
「おれはカオのああいう奥ゆかしいところも好きなんだ」
「へえ」
この『へえ』に警戒しておくべきだった。
ワイヤーはトラブルが好きである。すぐにおもろしろがっては余計なことをするのだ。
夕食の後である。
美味しい菓子があるとカオが部屋にやって来た。キラーはまた酒を飲み、カオは紅茶を飲みながら菓子をつまむ。ベッドに二人で腰掛けてこうして話をするのはよくあることであった。
次第に欠伸をしたり、目を擦ったりとカオは眠たそうな様子を見せていた。
「カオ、どうした疲れたのか」
「いえ……なんだかポカポカして」
カオは肩に頭を預けて来た。たしかにほんのりと温かい。些かならず眠さを感じたカオはそのままズルリとキラーの膝へと頭を落としていった。
「ベッドに上がるか?」
小さく頷くカオはゆっくりとベッドへと這い上がった。キラーはそのまま酒を続けて飲み続け、丸くなっているカオを背中に感じていた。
「キラーさん」
背後から呼びかけられ、酒を流し込みながらうんと返事をした。振り向くより先に丸まったままカオが後ろにくっついて来た。
キラーは酒が入ったグラスを落とした。なんだって?とゆっくり振り向くと、確かに自分の知っているカオがいた。
「起きるまで居させてください」
カーッとキラーの顔に熱が集中する。口からボタボタと酒が垂れることも気にせずに動かず固まっていた。
カオが服の裾を掴んでくる。
「その、前々からずっと考えていたんだが、あー…も、し良かったら、つまり、おれと…真剣に将来を考えてみないか?」
「………」
「まだ起きないんだぞ、一体どれだけ飲ませたんだ」
「適量ですって」
眠り姫となったカオはあれから目を覚ますことなくグッスリと眠っている。
やはりワイヤーが紅茶に睡眠薬を盛っていたのだ。
「手を出せない奥ゆかしいキラーさんのためを思ってやったんですよ」
「余計なお世話だ!」
大きな船での狭い世界ではクズ野郎が多い、キラーはカオの寝顔を見守りながら「ワイヤーから渡された菓子は食べるな」と言い聞かせないといけないと考えていたのだった。