手練れの者

「そこのカゴひとつ、それと塩。酒はあるのか?」

「にいちゃん随分と買い込むなあ。夜逃げでもすんのかい」

どっさりと買い込む金髪の大男に店のおやじさんはヒイヒイハアハアと酒樽を運び出して来た。やはりマスクをしなければキッド海賊団の者だとはわからないらしい。堂々と道を歩けるのも、安く買い込むことができるのもマスクを外しているおかげである。

「おじさま、こちらでお代は足りますか」

カオと堂々と街を歩けることもマスクオフのおかげである。ありがとう、マスク。ありがとう神。
カオが代金を支払っている間に荷車に買ったものを乗せる。船では二人きりになるなんてことはなかなか無いのだ、しっかりとこの時間を堪能しなければいけない。

「ねえちゃん、あのにいちゃんは…ねえちゃんの恋人か何かなのかい」

ピクリとキラーの聴覚がしっかりと反応する。耳を澄ましながら荷物を載せて、どう答えるんだろうとドキドキと胸を高鳴らせていた。

「いいえ!わたしは仕事を頂いているだけですから、おじさまが思っているような関係ではありませんよ」

カオがサラサラリと答えると、荷車の荷が崩れ落ちた。あからさまにガン!とショックを受けたキラーは落ちてきた荷を頭にぶつけながら泣いているようだった。店の主人はどことなくそれとなく「これは聞いちゃいけないことだったのか」と察したのである。


荷車を転ばしているキラーの側で、カオはメモを見ていた。

「あとは洗剤や石鹸ですね。キラーさん、行きましょう」

「石鹸…といえば、カオは皆と同じもので良いのか?女なのに、野郎と同じで。髪も」

「それは…!良いんです、わたし、同じもので!」

遠慮しているのか、それとも興味が無いのか。街の女たちは香水や石鹸やなにやらで皆良い匂いをさせて歩いている。きっと船でガサツに洗う男の石鹸と街の女が使っているものは違うと思うのだが、良いと言われれば、それ以上は言えない。
まあ同じものを使っているのにカオは良い匂いがするのだが。女って不思議。

洗剤を買い込もうと店に入ると、髪の長い女店員がキラーに話しかけてきた。物品のオススメを教えたり、街ではここが美味しいと話したり。

「おにいさん素敵だからオマケあげちゃう、はいどうぞ」

店員はしっかりとキラーの手を取って握らせるように石鹸を渡す。

そんな時、突然ガッシリとカオが腕を絡ませるように組んできた。何か言うわけでもなく、そのまま店員の話を聞いていた。店を出るまでカオは腕を離さずであったが、荷車を前にするとパッと腕を離したのである。

「時間を食ったか、すまん急がせてしまったな」

急いでほしかったのだろうとキラーは考えていた。それで手を引いたのだと。

「いえ、すみません、はしたないことを」

別にはしたなくは無いが。むしろ良い。常にそうやってスキンシップをとって欲しい。甘えて欲しい。例えるならすぐにさきほどの店員と同じように手を取って…


ハッ


「……勘違いなら、謝るが」

「はい」

「妬いていたのか」

カオは真っ赤になると、俯いたり左を向いたり、わかりやすく動揺を始めた。

ますます真っ赤。カオは手で顔を隠しているが真っ赤なのが耳を見れば丸わかりだった。

「急がせたいのかと思っていたんだが」

「すみません、その…」

「妬かれるのも、甘えられるのも、嫌じゃない」

ソソソと控えめに腕を掴んでくるカオは「こうですか?」とおずおずとしている。「もっとだ」と言うとギュッとくっついて来る。そのとき、フニュッと柔らかい胸が当たった。そのくらい密着しているということ、思わず顔が緩みそうになる。


「わたしはキラーさんのものなので、どこに行くこともありませんが、キラーさんが取られてしまいそうで…つい向こうを張って腕を…」

「おれの」

「はい」

「おれのカオ」

「はい?」

いつからカオは自分のものになったのか。ピカピカとして見えるカオに吹き出しで『おれのカオ』と大きく記されているような気がする。

「おれのカオ!」

キラーはカオをガッシリ!抱きしめると頬擦り。これが、おれの!と思う度に強く抱きしめてしまう。

「ふふ、キラーさんのにおい…」

「汗臭いか?」

「いいえ、石鹸の。わたし、キラーさんと一緒の匂いが嬉しいので、特別は要らないんですよ」

キラーはそろそろと自分の背中に手がまわって来る感触がわかった。

「甘えるというのはこれで良いですか」

「もっとだ」

「ふふふ」

帰りの遅い二人をキッドはイライラしながら船で待っていた。電伝虫で呼び出され、馳せ着けたキラーの顔はゆるゆるとだらしないことが他の人にはわからずともキッドは気が付いたらしい。