雨に唄えば
「おかしい」
ジークフリートは悩んでいた。
毎日召喚した本人のカオではなく、家族の指示を聞いて用事を頼まれている。カオは命令どころか話もしなくなってしまった。
「やはり俺では役不足だっただろうか、他の英霊ならばもっと上手くやっていたかもしれない…」
悩みを打ち明けるジークフリートに、部屋のぬいぐるみは答えない。答えるわけも無くただ愛らしい姿をして座っていた。カオの父に聞けば、これはカオが小さい頃から大切にしている物らしいのだが、時々場所を動かされる為カオの部屋にばかり居るわけではない。
こんな風に愛らしい使い魔ならカオも命をくれたのかもしれないとまで考え、窓の外を覗く。
「カオ」
どこかへ出かけるのだろうか、カオが門に向かって歩いているところが見えた。急ぎ自分も外へと飛び出ると、鎧のガチャガチャと言う音に気がついたカオが肩を跳ねさせていた。
「どこへ行くんだ。俺が行こう」
「えっ、そ、いいです」
「そうか…」
逃げるようにカオは門を開け、帽子を深く被り直して走り去った。
生前は望まなくてもあんなに頼まれごとをされたのに、言われなければどうすれば良いものかわからない。ただ帰りを待つことしか、今のジークフリートにできることは無かった。お茶を淹れて待つ…なんてことができれば良いのだが、残念ながらそういった知識がジークフリートには無かったのである。生前、お茶の淹れ方を習うべきであったと悔やんだ。
夕方になると雨、雷雨である。
カオはまだ戻らない。どこまで行ったのかすら自分は知らないのだ。遠いのか、近場なのか、泊まりなのか。
日も落ちて薄暗くなってきた頃、どうも父君の落ち着き無い様子に異とする。ジークフリートはカオが泊まりではないこと、出かけ先が近場であることを知るや否や傘を持ちカオを探しに飛び出していた。
召喚された日に、脳内伝達で意思を伝えることをやめるように言われていた。テレパシーは気持ちが悪いらしい。初日以来それは使っていないがこの緊急事態には許されるだろうか、魔力は残っているだろうか、名前を呼び雨を蹴っていた。
僅かな魔力の伝達を辿り、静かにカオを呼びかけた。返事は無いが、微量の魔力が糸のように感じ取れた。糸を手繰り寄せるようにカオを探す。
見つけたカオは、崩れた石垣の先に居た。足場が崩れたらしい。
「カオ」
「ジークフリートさん」
足からの出血がみられる。ジークフリートは自分の纏っていたマントを細く千切ると、カオの足に巻きつけた。
「いけません、服が」
「応急処置だ。歩けるか?…いや、歩けるなら、こんな所に居ないな…」
カオを抱き上げるとジークフリートはハッとしてあることに気がつく。
「すまない…これでは雨に濡れてしまうな、傘を持って来たのだが…」
「させませんね」
「すまない…」
会話はそれくらいなもので、家に帰れば後はお手伝いの者たちがあれやこれやとカオを連れて行ってしまった。