お茶の子
「茶の淹れ方を習いたいのだが」
そう初めに言われた屋敷の者は酷く困惑したと言う。
英霊であるあのジークフリートが突然、そんな趣味に目覚めたのかとキッチンでは話題である。
ある程度の現代の知識は入ってきてはいるが、なんともさっぱりわからない初めてのことが多い。そのうちのひとつが紅茶であった。
カオは紅茶が好きらしい。よくお茶会に参加もしている。家に帰ればすぐに一杯のアップルティーを所望していた。
「ジークフリート様、長く蒸らせば良いというわけではございません。蒸らす時間も大切なのですよ」
「そうか、すまない」
熱心に紅茶を勉強する剣士の姿は少しおかしく、奇妙な光景だった。
リンリンと鐘が鳴るとカオが帰宅した合図だ。ちょうど良い、とジークフリートはティーポットを運んだ。
「ジークフリートさん」
そんなジークフリートを見たカオは目を見開き、どうしたことかとキョロキョロとした。
「茶を淹れてみた。どうだろうか、改善点などを教えて欲しいのだが」
「どうしてジークフリートさんがお茶を…」
「飲んでみてくれ」
ズイッと出されたティーカップを恐る恐る受け取ると、カオは一口飲用した。毒でも入っていたらどうしようと思いながらの一口であったが、温かい紅茶がジンとする。
「おいしいです」
「よかった」
「…座って飲めれば、さらによかったのですが」
「はっ…すまない」
テーブルへとティーポットを運ぶと、いそいそとジークフリートは椅子をひいてカオを触らせた。
また恐る恐ると座るとカオは紅茶を飲んだ。それを瞬きもせずに凝視するジークフリート。まるで実験をされているモルモットの気分だ。
「あの、どうしてこんなことを」
「カオの役に立つことが俺の役割だからだ」
「剣士にこんなことをさせては…」
「ここに俺が剣を振るう場所は無い。それならば、できる限りを全うしたい」
返事として笑うと、カオはティーカップをジークフリートに差し出した。
「俺に飲食は必要無いのだが」
「お茶は誰かと一緒に飲む方が美味しいのですよ」
そうか、と言われるがままにジークフリートは紅茶を一口飲み込んだ。
「…どうも、渋いな…ウウン、すまない。善処しよう」
ティーカップに砂糖が沈む音がまたカオの口角を上げた。