淡い光

『この花が一番好きなんです』

そう言ってカオが指差した花の絵をしっかりと覚えた。前に怒らせてしまった詫びに、この願いを叶えたい。

朝日が登る前にジークフリートは屋敷を出た。

「この花を見たことはないか」と出会う人々から情報を集めて彷徨っていたジークフリートは隣の隣の隣の町までやって来ていた。しっかりと花を握りしめて、また隣の隣の隣の自分の街へと戻る頃にはすっかり日が落ち、星が瞬いていたのだった。

「ジークフリート様!何処へ行かれていたのですか!」

ジークフリートの帰り1番に大きな声を上げたのは給仕の者である。門を開けたのがその人だったからだ。
説明をしようと口を開きかけたところ、給仕の「カオ様が大変ですよ!」という言葉に目を見開く。

何があったというのだ、急ぎカオの部屋に走る。戝か?病か?怪我でもしたのか?ノックもせずにドアを突き破るとジークフリートは剣を構える。

「カオ!」

あたりを回す限り、怪しい者はいない。カオが机に肘をつき、驚いた顔でこちらを見ている。

「ジークフリートさん!」

「カオが大変だと聞いて…どうした、戝か?見当たらないが、怪我でもしたのか?」

「迷子です!」

誰がだと聞こうとすると、また口を開く前に先を越されてカオが抱き締めてきた。剣をゆっくり、カオに触れないように降ろすと落ち着いてカオの様子を見る。

「誰が、迷子になったんだ。身内か、それとも、鳥か?」

「あなたですよ!何処に行っていたんですか!」

カオはそう叫ぶと泣き始めてしまった。腹に涙が当たり濡れた。

「すまない、また怒らせたようだ」

「私はあなたを怒ったことはありません、心配していただけです!」

今度はゆっくりと出かけた理由を説明する。そうするとカオは信じられないという顔でジークフリートを見た。

「それならそうと言ってくれれば…私はあなたに何かあったのだとばかり…」

「早朝だった。起こすのは野暮だと…」

カオの手の力が強くなる。カオは俯きながらもしっかりと身を寄せるのだった。

「それで、花は」

「はっ」

せっかく摘んできた花は、強く握り締められヘロヘロになっていた。申し訳無さそうにするジークフリートを見て、カオは可愛らしさを感じたのだった。

「植物を元気にさせる術はあります。きっと大丈夫ですよ」

「おお!ならばカオに渡す相応しい花のままだ」


花を貰ったカオよりも、花が無事であることに喜ぶジークフリートはまた取って来ようと口を滑らせる。もちろん、そんなことは許されずにしばらくジークフリートは外出禁止の命を受けた。