右も左も

今日は共に遠征できる!とどこか楽しみにしていたジークフリートは一番に準備を済ませていた。
外で散歩の飼い主を待つ犬ように静かに待っていれば、給仕長に見つかった。

「物騒な格好のままで行くつもりですか」

そう一言ピシリと指摘され、あっという間に屋敷の中へと連れ戻された。ジークフリートは何度も断ったものの、強引に着替えをさせられたのだった。これでは戦えないと言えば、戦う必要はありません!とまたピシリ返された。

「ジークフリートさん、着替えたんですね」

「ああ、これでは戦えないと言ったのだが…却下されてしまった」

「戦場に行くわけじゃないんですよ。今日は薬に使う植物の採取なんですから」

あまりまだ納得していないようなジークフリートは新たな服を触るばかり。本当にいざとなれば鎧に戻すことも術で可能なのではあるが、わずかでも魔力を食うことをジークフリートは気にしていた。


いざ森に入り込むと、情報を共有し目的の実と葉を探す。服を汚さないようにと気をつけながら真剣に採取をしてくれたジークフリートにカオは目を細めていた。

「助かります。見分けが難しいものは自分で取りたい性分で…」

「役に立てるなら、俺は構わない」

昼をまわったころ、休憩にしましょうと提案。
ちょうど良い岩に腰掛けて包みを開きお弁当を出すと、カオはジークフリートにもひとつ渡した。

「マントの時にわかったと思いますがあまり器用ではなくて。出来が良いとは、言えませんけれど」

「カオが作ったのか?…俺の方が大きい器だが、間違いではないのか」

「し、失礼ですね!そんなに食べませんよ私は!」

パカッとフタを開けながらカオは恥ずかしそうに怒った。怒っているカオの顔も見ずにジークフリートはお弁当を愛おしそうな顔で覗いていた。

「いや、こんなにカオの弁当を食うことができるとは光栄で…俺が本当に、良いのかと思ってな」

「な…」

「美味い」

先程とは違う恥ずかしさでカオは顔が熱くなった。

「ジークフリートさん王族でしょう。もっと良い物を食べていたんじゃないですか」

「いいや、俺はこれが美味い」

もりもりとサンドイッチを食べるジークフリートを見て、そういえば騎士らしいことも王族らしいこともさせずに申し訳ないとカオは密かに反省をしていた。

「ジークフリートさんにこんなことばかりさせていたら、天罰が降るかもしれませんね」

「なら俺は天災からカオを守れば良いのか?」

「いえそんな、いつもくだらない頼みばかりですみません。きっと竜が居ても、私は竜を殺せとは頼めませんし…」

何故かと問えば、生き物を殺せないからとカオは答えた。魔術師の家柄ながら、カオは命を犠牲にする術は使おうとしない。こうして植物ばかり集めていることもその理由があってである。

「俺は殺生が好きなわけではない。カオが居るところ、俺もそこに居よう。生きていればそれで良い」


黙ってお茶を差し出せば、ジークフリートは心良くお茶を受け取った。