ポピーと雛菊

「き…綺麗…」

ペカーッとまばゆい刺繍にカオは目を奪われる。ハンカチに刺繍をしたのはカオではなく、ジークフリートである。カオが裁縫を練習していたところ、自分もやってみたいと願い出たジークフリートは驚くほどの器用さを見せた。

「初めて針を持ったが、うまくできているだろうか」

「なんでもできてしまうんですね…ジークフリートさんがこんなに器用な人だとは思いませんでした」

カオは自作の刺繍ハンカチを隠しながら呟いた。繊細なネズミが縫ったようなジークフリートの刺繍を前にとても見せられないと思った。王子って恐い。

「俺はカオの仕立てた物の方が気になるが」

隠したのだから察して欲しいのだが、見逃してくれないジークフリートにカオは冷や汗をかく。
前にマントの出来を見たのだから知っていると思うのに、酷な話だ。

「笑って良いですよ」

そう言いながらハンカチを出すと、ジークフリートは笑った。しかしそれは面白くて笑っているのではなく、とても優しいものであった。

「やはりカオの方が良いな」

「そんな!雑巾にしようかと思っているくらいで…」

「それなら俺に譲って欲しい」

変な人、と思いながらもハンカチを渡すことにした。驚くほどに嬉しそうに笑うとジークフリートは自分のハンカチはカオに持っていて欲しいとそちらを渡してきた。結果的に交換となったハンカチは同じ布とは思えない雲泥の差がある出来の刺繍だった。
この時は恥ずかしいが渋々という顔をしていたカオだったが、内心はとても嬉しく思っていたのだ。



改めて夜に広げてハンカチを見ていたカオは、意図せずにこにこと笑っていた。ふふふと声が漏れる。
「大切にしないと」とハンカチを鼻に当てて想いに浸っていると、コホンと咳払いが聞こえた。

「すまない、待っていたのだが…気がついてもらえそうになかった。その、大切にしてもらえるなら、俺は嬉しい」

振り向けばジークフリートがお茶を持って立っていた。耳まで熱くなる感覚を覚えながらカオはお茶の御礼をボソボソと伝えたのであった。