咳唾珠を成す
今日は薬にするための木の実探しをしている。この辺りでは珍しいものでは無くよく見つけられるものだ。ある程度の量が欲しいと摘んでいるところであった。
ビュウ、と大きな強い突風に飛ばされた一枚はカオが大切にしているハンカチだった。ああ!とカオの声も虚しくハンカチは遠くへと飛ばされわからなくなった。
「カオ、大丈夫か」
「私のハンカチが…」
ジークフリートはカオの声を聞きカオに駆け寄るとぽろぽろと落ちるものに胸を衝かれた。カオは顔を抑えながら鼻を鳴らした。
「家宝か何かか?形見か?」
「ジークフリートさんに頂いた…ハンカチ、」
なんだよかったと安心したことを口にすればカオはしゃがみ込んでさらに泣いた。どうしたらいいかわからない、また自分が買って来ると言えどもカオは頭を振る。
「あれは宝物なのに…」
聞き取れた言葉はそれで、カオはひくひくとしゃくりあげ、ジークフリートはカオの気持ちを慮る。
「探しに、行くか…?」
そう提案をして、思わず知らず手を差し出せばカオは頷き手を重ねてきた。そのまま手を繋いで歩いていると、少しずつカオは泣き止んでいった。二人はたしかこちらに飛ばされたという方向へ歩いていく。
「俺に千里眼が備わっていれば良かったのだが…」
「そんなこと…」
カオの言葉途中、ポツポツと雨が鼻先に落ちてきた。あろうことかこんな時に雨が降ってしまうなんてと考えることも束の間、ジークフリートはカオを抱き上げ雨宿り先を探した。
雨を凌げる所へカオを降ろすと、ジークフリートはカオに自分が持っていたハンカチを渡した。
「濡れてしまったな、すまない。探すのは俺に任せてここで待っていて欲しい」
「でも」
カオに掛け構いなく、ジークフリートは笑った。
「必ず見つけよう」
胸が塞がるような思いの中、カオはここで待つことになった。
そしてカオを残して探しに出たジークフリートが戻って来たのは雨が本降りになりしばらくしてからである。ぐっしょりビタビタに濡れたハンカチを握り締めて。
「見つけた」
そうジークフリートが差し出した物は確かにあのハンカチで。びしょ濡れのジークフリートとハンカチを見てカオは随喜の涙なのか居た堪れない涙なのか涙が溢れてきた。
「な、何故また泣くんだ、汚れてしまったからか?どこか痛むのか?」
狼狽えるジークフリートにカオは近寄る。「こちらに来ると濡れてしまうぞ」と警告するがカオは構わずジークフリートに頭を預けた。
「私が馬鹿なばっかりに、すみません。こんなことで、体を濡らせてしまって」
「カオの大切な物が戻ってきた。それは冥利に尽きる、こんなこと…などでは無い」
「身を粉にして働くような人だったんですね、本当に。優しいジークフリートさんが私は大好きです」
目を細くしてジークフリートはカオを包み込んだ。雨に濡れてぐしゃぐしゃだったが、カオは気にせず口元が綻ぶ。
屋敷に帰ると、二人してどうしたことかと問われながらお風呂に直行させられた。
最初より、少しジークフリートと仲良くなれた気がする。