メカナ


「これはたまたま今回出来が悪かっただけです!」

甘い匂いはするものの、ここにあるマドレーヌはまるで形がなっていない。ぐしゃぐしゃだ。

マドレーヌ型から取り出す際にぐしゃぐしゃになってしまったマドレーヌをジークフリートはただ見つめている。カオはどこか、やはり、不器用なのだよとマドレーヌの一団は語りかけてくるようだった。

「俺もやってみたいのだが」

「だ、だめです!ジークフリートさんは器用なところがありますから、また上手く作ってしまうじゃないですか!」

「カオ…ところで、食べないのか?」

「食べません!私はこれでは満足できませんから」

思わず立ち上がり抗議するカオにジークフリートが目を丸くする。こんなはずじゃなかった、おかしいと思うなどとブツブツと思考をダダ漏れさせながらカオは椅子に座り直した。

「仕方ないので街へ出ます。ジークフリートさんはついて来ないようにお願いします」

「な、なぜ」

「どうしてもです」

ついて来るなとピシャリされたジークフリートは、今日こそは怒らせてしまったのだろうかと思考を巡らせる。給仕に拠ると大人しく待つことになったジークフリートはカオが帰るまでずっと窓の外を覗いていたらしい。

紙袋を抱えてカオは帰ってきた。少し甘い匂いがするのは、先程の料理のせいだろうか。

「これ、本当は出来立てをお渡ししたかったのですが。ああなったものを渡すわけにはいかないので」

紙袋から出てきたものはお店で購入したマドレーヌである。カオはスッとジークフリートに渡すと、またしまったという顔をした。今日のマドレーヌ型からマドレーヌを取り出せなかった時のような、あのしまった顔だ。

「ラ…ラッピングするつもりだったのに。あなたにすぐ会ってしまったせいです!すぐに渡してしまった…」

「どうして包む必要があるんだ?」

「ば、ばれ、バレンタインだからですよ」

そういえば今日は、そうだ。あまりそういったものに興味は無かったし、そんな風習も無かったジークフリートにとっては初めてのバレンタインである。

「ありがたく受け取ろう。しかしカオの作ったものもうまかったのだが…わざわざ買い直す必要はあったのか?」

「た…食べちゃったんですか?!あれを!私が片付けようと思っていたのに!」

「す、すまない…カオが食べないならと思い…」

ヒョイパクヒョイパクとぐしゃぐしゃマドレーヌを食べていたと、また給仕から話を聞いてカオは信じられないと叫んでいた。



『こんなにうまいものができたというのに、カオは食べないとは勿体ないな…』

『きっと綺麗に作れていても食べなかったと思いますよ』

そんな会話が買い物中にされていたことは、給仕たちの紅茶の美味しいお供になるのだった。