我勝ち
丑三つ時。鹿の鳴き声がする。
「長谷部さん、長谷部さん…!」
その声にすぐ目を覚ましてみれば、障子に主の影あり。こんな時間に
「主、夜更かしは体に触ります。どうなさいました」
少し障子を開ければカオがコソコソと四つん這いで部屋の前に居た。
「夜更かしのつもりはないの。怖い夢を見て、起きて、それでその、あ…朝まで起きていましょうよ!」
「なりません主。お戻りください、睡眠は必要不可欠なものです」
「戻れません。廊下、怖くて」
「ここまで来られたではありませんか」
「ここには長谷部さんが居るからです」
主…!と感動すると長谷部はすくっと立ち上がり、送り届けると決意をした。
廊下に出るとカオは長谷部の背後に素早くまわった。
「主、惟るに…主に一番近い部屋は歌仙ではありませんか。其方に行けば良かったのでは」
「歌仙さんは寝起きが…いえ、長谷部さんが良かったんです」
主……!と、長谷部は頼られていることに感極まる。
長谷部の胸がじいんと熱くなっているところ、二人の目の前を何かが横切った。魂消てカオは長谷部にしがみついて「ほらー!」と叫び、長谷部は泡を食って「主ー!」と叫んだ。
「ほら!ほら何か居るじゃないですか!」
「主!主離れてください!あるじ!あ、あるじー!」
朝になり、騒動の正体は五虎退の虎だと判明する。
「良いですか主!抱きついたりなどしてはいけません!俺に!そんなことは!目溢しを願ってもこの長谷部、水に流すことはできません!」
審神者の部屋で長谷部がまたなにか世話を焼いていると本丸の庭では鶯が鳴き始めていた。