ルフィーナ

「か、風邪をひきますよ」

そんなところで寝てはいけないと、恐る恐る声をかける。木に持たれて目を閉じている男は首を動かした。

「おや…これはライラックの香りでしょうか。花の精に起こされてしまったようですね」

穏やかな陽射しに包まれて男は微笑んだ。

「花の…いえ、そういった類のものではありませんよ。お気をつけて、この辺りに物取りは居ませんが時期に冷えます」

「それはそれは…感謝致します」


それが昨日の昼過ぎのできごと。
次の日の朝、屋敷に来客が来るとカオは遠くから隠れ見ていた。どうやらこの辺りに新しく店を開く予定の者が尋ねて来たらしい。

そこにはあの時の赤い髪をした男の姿もあった。

カオが気がついた頃、同時に赤い髪の男もこちらに気がついた様だ。スタスタと近寄って来る赤い髪の男に巧まずして少しビクリとしながらもカオはそこから動かなかった。

「貴女は花の…またお会いできるとは。私は嬉しい」

ポロロン。そんな何かの音が聞こえた気がする。

「申し遅れました。私の名はトリスタン、アーチャーです。ライラックのレディ、お名前は」

するとすぐにカオはジークフリートの背後に隠れて、名前を名乗った。

「よろしければこの街の勝手を知りたいのです。案内をして頂けないでしょうか。私のマスターはその、方向音痴…という類の者で、ここでは私が頼りなのです」

「それは、その、ではジークフリートさんも一緒に」

「貴女のサーヴァントですね。それでは明日、お迎えに参ります」

トリスタンはマントを翻しマスターの所へ戻って行った。姿が見えなくなると、カオもほっとしたようで表情が緩む。

「ついて来てくれますよね…?勝手に約束してしまいましたが…」

「勿論だ。御供しよう」

臆病なカオを久しぶりに見たジークフリートは口元が綻ぶ。頼ってもらえることが誇らしい。



…と、そんな様子を隠れ見ていたのはトリスタンである。

「これは禁断の愛の香りがしますね」などと思案に沈む。男のマスターの元で過ごして来たが、やっと愛すべきものが見つけられた。それも他所のマスターで、サーヴァントと仲睦まじいではないか。これはトリスタンの中で何かが燃え上がる燃料となったのだった。