ベリンダ
茶色い紙に包まれたストックの花のブーケが扉を開けた途端に差し出された。
「これは…」
「お嫌いですか」
「いえ、花は大好きです!」
へにゃら、とカオが笑うとトリスタンは突然の向かい風を受けたかのように衝撃を受け息を呑む。
可憐だ、愛らしいとトリスタンは心打たれたのだ。
カオが花束を受け取ると、給仕に「黄色い花瓶にしてね」と約束をして託した。給仕が場を離れると、その影からジークフリートが現れた。その顔は穏やかで、花に喜ぶカオを見守り幸せである。
「ジークフリートさん、トリスタンさんとは仲良くできそうですね」
そう言いながら、カオは近寄ってジークフリートの手を握る。ジークフリートの手は優しくて温かくて安心できるのだとカオは前に話していた。
「カオ、俺は俺と隔てなくするカオが好きだ。だがカオは他者と打ち解けないだろう、それを父上も答え倦んでいる。今日、俺はここに残ろう」
「そんな!昨日はついて来てくれるって言っていたのに…ジークフリートさんが居ないと心細いじゃないですか…」
「カオなら大丈夫だ。もし何かあればすぐに向かおう」
頷くとゆっくりカオはジークフリートから離れ、トリスタンの方へそろりそろり。まるで巣立ちを怖がる鳥のようだった。
トリスタンは内心『なんだか知らないが好都合!』と意気揚々としていた。
「カオ、今日一日は私を使い魔として御扱いください。…と言っても、案内を任せてしまいますが、お許しください」
そして留守番となったジークフリート。
トリスタンと出かけることになったカオは帽子を深く被って出て行った。
「ジークフリート様は余裕があるようですね」
カオが出かけた後、花束を花瓶に生けながら給仕がジークフリートに話しかけて来た。余裕とはどういうことだろうとジークフリートは案じる。
「その顔はストックの花の花言葉を存じていませんね」
「花言葉…」
「ストックの花言葉は『求愛』、こちらは白いストックの花ですから、それに加えて『ひそやかな愛』ですね」
ジークフリートは「少し出かける」と言い屋敷を出て行ってしまった。その顔は仏頂面ではあるが、内心では「やはりついて行けばよかった」と焦り後悔していた。