エテルニテ

「あちらのスムージーは最高ですよ。毎朝飲みたいくらいです」

「図書館横の道を通れば早いのです」

「ここはよく喧嘩が起きているようです、避けましょう」


トリスタンは街に何年も前から住んでいたかのように詳しく、カオが案内をするような場面は無かった。カオも知り得なかった道を通り、新しく好きな店もできた。

花屋なら着くと一本のチューリップをカオにプレゼントした。

「トリスタンさんは、その…街にとても詳しく見えますが…」

「ええ、調べながら散策しましたから」

「案内をして欲しいと…」

「さて何のことやら」

惚けているトリスタンに少しだけ怖さを感じながら、潰れない程度にチューリップを握る。カオはもしかすると、何か良くないことをされるのではないかと顔色無し。しかしながら、それをトリスタンも見逃さない。フウと肩で息をすると、トリスタンは一度困ったような顔をして、それから少し、やわらかな表情になった。

「どうか強張らずに。カオ、貴女と逢瀬を楽しみたいと伝えて、それは叶っていたでしょうか」

「逢瀬と言われると、行かなかったと思います」

カオが頭を振ると、またトリスタンはフウと息をした。

「貴女を騙してでも街を歩きたいと思ったのですよ」

「どうしてそんな」

「愛おしいと思ったからです」

トリスタンは跪き、カオの手を取った。ガウェインにもよくコレをされていたが、カオは少し恥ずかしく感じた。

「烏滸の沙汰とは考えましたが、夢寐にも貴女を忘れられないのです」

「そんな…」

どうして良いやらカオは汗顔の至り。どう答えることが素敵なのか言葉が見つからない。そんな数秒、トリスタンの目が何かを捉えたようで突然鋭くなった。

「どうやらもうここがバレてしまったようですね。貴女の騎士が来ましたよ」

カオが小首を傾げると、トリスタンは困ったように笑う。振り向けばジークフリートが走って追いかけて来ていたのだった。

「カオ!随分と探した!」

「わざと入り組んだ道を選んだというのに、鍛えられた犬のようですね。探し出すとは…」

馳せ着けたジークフリートの八の字を寄せた顔を見てトリスタンは立ち上がる。やはり困ったような、残念そうな、でもどこか嬉しそうな顔をしている。

「ジークフリートさん、待っていると言ったのに…」

「事情が変わった。やはり俺もついて行くべきだった。何もされていないか、カオ」

「ええとくに何も…どうされました?」

ジークフリートはホッと胸を撫で下ろす。
カオもジークフリートを見ると安心したようで、緊張していた体が柔らかくなった。

「今日はもう帰ることにします。カオ、御礼はまた後日ということで」

「わ、わかりました」

カオの手の甲にキスをすると、トリスタンは霊体化したのか姿が見えなくなってしまった。カオは消えていくトリスタンの光の粒のようなものをずっと見つめながら無意識に手の甲を反対の手で撫でていた。

そうしてカオが様子振り黙って赤くなっていると、ジークフリートはあからさまに面白くないという顔をしていた。

「カオは口付けが好きなのか?」

「口付けって、そんな…挨拶をされただけですよ!」

慌てて弁解をしていれば、ジークフリートに顎をクイと持ち上げられる。そして慌てる間も無く口付けをされていた。

チュ、と唇が離れる音。

「魔力供給する時では無いと思います」

「俺は魔力が欲しいのでは無い。挨拶でも無い。これは接吻であり口付けであり、カオを慕わしく思ったからだ」


もうジークフリートの顔をまともに見ることはできず、カオは馬鹿だとかいやらしいだとか小声でつぶやきジークフリートの胸を借りた。
また、ジークフリートは黙ってカオを大切に抱えるように抱き締めて、良かったと安堵していた。