ヴィットリオ
トリスタンは本当に近所の住人のサーヴァントだった。引っ越して来た住人は花屋を営み、とても華やかであった。
毎週金曜日にはトリスタンが花を届けにカオの屋敷にやって来ている。迷惑では無いかとカオは心配していたが、甘い言葉でトリスタンは返すばかり。
今日もトリスタンは花を持って訪ねて来ていた。
「また来たのか」
ジークフリートはもちろん警戒をして門で待ち構えていた。しっかりと鎧を纏い剣を鞘から抜き、地面に立てている。
「貴方も毎度の出迎え、結構なことですね」
「花はカオに渡しておこう。俺に預けて早く帰ると良い」
バチバチと火花散る二人の争いのスタートの合図のように強い風が吹いた。
「よく見れば貴方のマントはツギハギだらけですね。必要経費とはされないのでしょうか」
「フン、これはカオが直してくれたものだが。なかなか俺は気に入っているのでな、外せないんだ」
「な…カオお手製、というわけですか」
勝ち誇るジークフリートを見てトリスタンは臍を噬む。
「しかし貴方はカオの好きなものを知っているのでしょうか」
「ぐ…なんだ、リスか猫か、キツネか…?」
「おや、カオがペンギンを好きなことも知らないようですね。カオは花を渡すとよく内緒話をしてくださるのですよ」
威張るトリスタンにジークフリートはやきもきとする。
ガチャリと扉が開く音がすると、二人はその方を見た。扉からはカオがエプロンをしたままで出て来た。白い粉だらけである。二人が目を丸くしていると、カオはトリスタンを確認してエプロンの粉を慌てて払った。
「トリスタンさん!ああもうこんな格好で…ジークフリートさん、トリスタンさんがいらっしゃっているならそう言ってください!てっきり一人でいるのだと…」
「カオ、エプロン姿も素敵ですね」
「給仕長が汚れてはいけないと渡してくれたので…今お菓子の練習をしているところで、すみません」
髪を耳にかけながらカオは照れ笑いをする。トリスタンは倒れそうになりながらエプロン姿を目に焼き付けていた。
ジークフリートもカオのエプロン姿は初めて見た為じっと見惚れていたが、カオに手を引かれて我に帰る。
「ジークフリートさんも早くその武装を着替えてください!お茶会はそれでは参加させないと何度も言っているでしょう」
「わ、わかった。すぐに着替えよう」
バチバチとトリスタンを一睨みするとジークフリートは屋敷に戻って行った。やっと二人になれたとトリスタンはカオに花を刺す出す。
「今日はイベリスを持って来ました」
「いつもすみません。素敵ですね、私大きな花って大好き」
バコーンと撃ち抜かれた音が聞こえていないと良いのだが、トリスタンは胸を抑えながらカオの満面の笑みに耐えていた。
「何をお作りで」
「ロールケーキを作ろうと。でもなかなか巻くことが…あ、大変…ジークフリートさんきっとまた手伝っているに違いない!トリスタンさん、また後でケーキを持って行きますね」
慌ててカオは屋敷へ戻って行った。屋敷からは「やっぱりまた手伝っている!ジークフリートさんはやっちゃだめですったら!」と大きな声が聞こえていた。
綺麗にできたロールケーキは無事にトリスタンのもとへと渡ることになるのだが、それはジークフリート作だとトリスタンは知らない。