これを使って
「またですか」
ジークフリートの髪から雫がポタリ。雨に濡れて帰って来たジークフリートにそこで待つように言うと、タオルを抱えてカオは戻って来た。
「また傘を人にあげちゃったんですね」
タオルで頭を拭きながら、ジークフリートはギクリと肩を揺らす。すまないと謝るところ、図星らしい。
ジークフリートは傘を持って帰って来ない。それは必ず、傘が無くて困っている人に渡してしまうからだ。正義の味方というのも厄介なもので、困っている人を見過ごせないのだった。
「次からは先を考えて渡してください。もう何本傘を行方不明にしているのかを念頭において」
ジークフリートは申し訳なさそうに頷くと、身体を綺麗に拭いて家に上がった。
曇り空、雨が降りそうな灰色の日。ジークフリートが傘を持ち一人でおつかいに行こうとしたところ、カオのストップがかかった。
「また一人で行かせれば傘を無くします。私も今日は一緒に行きますから、良いですね」
傘を持ち待ち構えていたカオに了解をすると、二人で買い物に出た。粗方買い物を済ませたところで、やはり雨が降ってきた。バケツをひっくり返したような雨に、すぐ道は池を作った。雨の音が色々なものを掻き消す、湿ったにおいはパン屋の匂いもどこかへやってしまった。
今日は傘が無事に帰ってくると思っていたカオ。店の前で動けずにいる子どもを見るまでは。
「カオ…」
そして何かお願いをしたそうにするジークフリートを見るまでは。
「きっとあの子どもは服を濡らせば母親に叱られるのだろう。雨に濡れてしまえば風邪をひく、俺は風邪を引かない。雨は晴らせないが、困っている子どもの顔は晴らせるのではないか…」
「う…そこまで言われては」
軒先で傘をたたみ、子どもの前に跪くとジークフリートは子どもに傘を差し出した。大きめの傘を子どもは広げて、御礼を言って雨の中を去って行った。
ジークフリートがカオの様子を伺うために恐る恐ると振り向くと、カオはフウと息をついた。
「私の傘に入れば済むことです。持って頂けますか、傘を」
「ああ!すまない、ありがとう」
一本の傘は狭く肩は濡れたが、あまり嫌なものではなかった。
傘を減らすのは悩ましいが、相合傘はまたしたいとカオは寝しなに考えていた。