時世時節

とん、と肩に当たったのはカオの頭。
思わず知らず眠ってしまったようだ。

ジークフリートは豆の筋取りをしていたのだが、手を止めカオを起こさないようにする。肩にカオが引っ付いていると思うと、たちまち頬が赤くなる。

数秒じっと耐えていたが、恥ずかしさが増すばかり。普段意識していなかったカオの匂いやあたたかさがムズムズとさせる。

「あら、まあ」

通りすがりの給仕がフフフと意味ありげに笑って歩きながら見てくる。これではいけないとジークフリートは何とかカオを動かし体勢を変えようとした。すると変わることはできたが、ジークフリートが膝枕をしているかのような形になってしまった。

また別の給仕が膝枕の様子を見て「仲がよろしいこと」と笑っていた。

「これは已む無く、こうなってしまっただけで俺は!」

訳を聞いてくれと声を出せば、給仕は自分の口に指を当て静かにのジェスチャー。起こさないようにということだろう、言わず語らずで意図がわかった。膝の上でカオは気持ち良さそうに眠っている。


どうかもう何も起こらないように神に願っていれば、玄関先から「…それでは顔だけ見て帰りましょう」と聞き覚えのある声が聞こえた。かてて加えてその声の主は部屋に入って膝枕を見るなり、弓を構えた。

「外しませんよ」

声の主、トリスタンはギチギチと弓を弾く。動けないジークフリートは起こしてしまうから静かに頼むとその場凌ぎの言い訳をした。諾うこともなく、トリスタンは益々手に力が入る。

「おかしいと思いました…女性が寝ているところを許すなんて」

「そ、そうだな」

「カオの寝顔を拝めると思ったのに、まさかこんな羨ましい姿を見せつけられるとは」

トリスタンの目がカッと開く。これは本気の目だとジークフリートは確信する。頑として肯んじない男の目だ。

「弓を降ろしてくれ」

「それなら先に、貴方がカオを降ろしなさい」

弓が放たれようとされた直前、カオが目を覚ましたようで小さく声を漏らした。カオはジークフリートの膝に気がつくときまり悪げに姿勢を直す。

「いけない私、つい」

カオがジークフリートから離れたことを確認すると、トリスタンは弓を降ろした。

「助かった…」

そうジークフリートが呟くと、カオは俯く。

「すみません、重かったですよね…」

「いや誤解だ、今のは…」

「カオ、私の膝へどうぞ」

パンパンと膝を叩いてこちらへどうぞとトリスタンは誘う。寝ていたところを見られていたのだと自覚し恥入るとカオは顔に紅葉を散らす。

「起こしてください、次からは」

ジークフリートの袖を掴んでそう頼むカオ。しかしジークフリートは目を合わせようとしない。

「いやしかし」

「はい」

「かなり良かった」

トリスタンはまた弓を構え、カオは恥ずかしさからジークフリートをポカポカ叩いた。

もう絶対にうたた寝はしないとカオは強く思うのであった。