ハハゴト
「カオ、魔力供給では無いキスがしたいのだが」
ドドン!とストレートもいいところなジークフリートにカオは時が止まる。時が動き始めれば、赤くなって指摘が始まるのだった。
「あなたはまたなんてことを言うんです、そ、それに前したじゃないですか!変なこと言わないでください!」
「そうか…」
それなら仕方ないという風にジークフリートは草むしりを再開した。そう、昼間に花壇の手入れを二人でしている最中にこんな質問をぶつけてきたのである。
時と場合を考えてほしいとカオは豆の収穫をした。まだ予定ではなかった豆だが恥ずかしさをごまかすために収穫してしまった。
その日の夜のことである。
「カオと寝たいのだが」
またジークフリートは積極的に声をかけてきた。
カオは「お断りします!」とジークフリートを追い返したのだが、どうも様子がおかしい。霊基でもおかしくなってしまったのだろうか。そんなカオの予感は的中、翌日ジークフリートにツノと翼と尻尾が生えていた。竜に近づいているようである。
「これ、大丈夫なんですか?」
「俺にもわからない。ただ、どうしてもその…」
「痛みますか?」と尋ねようとしたところ、ジークフリートに抱き寄せられたカオは心臓が口から飛び出そうなくらい驚いた。抱擁されることは初めてではないが、突拍子も無くこんなことをされるのは初めてである。
「あの、本当に…あの」
「抱えていたい、という感情が溢れてくる。すまない、竜の本能が…そうさせているのかもしれない」
頭に頬を擦り寄せてくるジークフリートに心臓がバクバクしながらカオはどうしたら良いのだろうと思考を巡らす。竜の本能とはどういうことなのか。
ジークフリートの息は荒く、落ち着かない様子が伺える。もしかすると食い殺されるのではないかとカオは少しだけ覚悟を決めていた。
「ひゃ」
そのままヒョイと持ち上げられると、ジークフリートの寝床へと移動させられてしまった。やはり食い殺されるのかと反射的にギュッと目を閉じるが、そんな心配も梅雨知らずジークフリートはカオを抱えたまま眠り始めてしまった。
「ジークフリートさん?」
軽く触れて声をかけてみるが、ジークフリートはスースーと起きようとしない。それどころか、動くとますます抱き寄せられる。
このままジークフリートが元に戻らず、竜になってしまったらどうすれば良いのだろう。
カオがジークフリートにまた頬擦りされると、途端に不安は大きくなる。
「竜の口にはできませんからね」
ちゅ、とジークフリートに口付けるとカオはそのまま包まれて眠りに落ちた。竜になって喋ることも手を繋ぐこともできなくなるのなら、食べられてしまった方が良いかも、なんて考えて。
「カオ!カオ!」
慌てたような声に夢の世界から戻ると、ジークフリートが肩を掴んで揺さぶっていた。その姿は尻尾もツノも翼も無い、いつものジークフリートであった。
「何があったんだ。よく…覚えていないのだが…」
「ジークフリートさん、竜になりかけていたんですよ」
「俺が…何もしなかっただろうか。カオ…大丈夫か?」
昨日あったことを思い出すとカオは恥ずかしくてたまらなくなり、布団に隠れた。
「ジークフリートさんが絶対にやらないことをしてました」
「な…」
抱き締めて頬擦りされて抱えられたまま眠り、自分はそんなジークフリートにチューをしましたなんて言えたことではない。
「なんだそれは、カオ!教えてくれ、何故隠れている」
「言えません!」
もごもごと答えるカオはしばらく出てこなかった。それ故にどんな酷いことをしてしまったのかと焦るジークフリートの顔も、恥ずかしくて忘れてしまいたいカオの顔もお互いに知らないのだ。