セサミ
「……む」
腕を掴まれ振り返ると、白い髪の男がこちらを見ていた。その表情は何を考えているのか読み取れず、しかしながら怖いと思うことはなかった。
「あの、なにか」
「俺はマスターの願いを叶えなければならない」
その日、ジークフリートは屋敷で乾燥させた葉を袋詰めして種類分けをしていた。これがなかなか面白い、時間を忘れて黙々と作業をしてしまう。何度目かの袋に手を伸ばした頃、カオが帰って来たのか屋敷内が騒がしくなった。しまった終わらせておくと言っていたのにと考えていると、カオが乱暴に扉を開けて飛び込んで来た。
「カオ、すまないまだ…」
言いかけていると、カオが扉を開けた勢いのままに抱きついて来た。
「な、な、どうした!カオ、こんな…俺は、」
バクバクと心臓を跳ねさせながらジークフリートは落ち着くようにカオと、自分にも言い聞かせる。
「カオと抱き合うのは好きだ…しかしこんなところで誰かが来てしまうと困るだろう」
「街で変な人が!」
甘い雰囲気になると思っていたところ、開いたままの扉から男がゆっくりと入り込んで来た。これがカオの言う変な人なのだとすぐに理解する。
「ランサー」
「セイバー、ジークフリートと名乗る者。また再開する時が来ようとは」
ジークフリートはグッとカオを抱えて自分の方へ押し込み、警戒態勢を取る。剣を抜こうと動けば男は「待て」と言い放った。
「俺は戦わない。それはマスターの命だからだ」
「ならば俺をどうする気だ」
「ここにサインを所望する」
男が出した紙を受け取ると、ジークフリートは文面を読んだ。それは牛乳配達の契約書である。何度読み返してもそれは変わらず、ジークフリートは思わず眉間にシワを寄せてしまった。
「俺のマスターの願いは多くの者に乳製品を送り届けること」
「この人、いきなり牛乳を購入するように迫って来たんです。知り合いですか、ジークフリートさん…」
「知ってはいるが…」
牛乳配達の彼は知らない。白い髪の男、カルナは堂々と契約をするように訪ねて来たのだ。英雄に何をさせているのだ、この世界は…ジークフリートはここへ来て以来、一番強くそう思った。
カルナのおかげで魔術で牛は死なないし、乳製品の加工段階で他者に手を加えられることもない。牛泥棒もひとひねり、野獣にも対抗できると喜ばれているらしい。
「契約成立だ」
紙にサインすると、カルナは誇らしげに消えて行った。これから週二回、牛乳の配達がやって来る。
「カルナさん、少しジークフリートさんに似ていますね」
「そうだろうか」
「その怖そうな顔とか…」
「え!」