靴を脱いでください
「そんなことありません!」
「そうでしょうか」
カオとガウェインが部屋で何やら言い合っている。何事だろうと考えていれば、カオがズカズカと近寄って来た。きちんと振り向こうと思っていたところ、それも間に合わないくらいに突然カオに後ろからギュー!と抱き締められる。
「ほら、ジークフリートさんは何ともありません!」
ガウェインはジークフリートの前に回り込み、ジークフリートの顔を確認する。
「ぬぬぬ…確かに変わらぬ趣ですね。私の負けです」
「当たり前です。ジークフリートさんはこんなことで動揺もしないし、平常心そのものなんですよ。弱点を襲われても堂々としています、騎士ですから!」
カオはジークフリートから離れると、自分のことのように胸を張る。誇らしげにカオは笑って、お茶をいれるためその場を離れてしまった。
「……貴方も大変ですね」
「わざとではないのか」
「何の話でしょう」
赤面のジークフリートをとても良い笑顔でガウェインは正面から見ていた。
「淑女の抱擁は私も好きです。当たり前のこと、嬉しそうで何より安心しました。
「な、カオに変なことを吹き込まないでくれないか!」
「努力致しましょう。ハハハ!」
ガウェインの楽しみにされているようで、ジークフリートの苦悩は続くのかもしれない。そう思うとジークフリートはガウェインの笑顔が少し怖く感じてしまった。
翌る日、本を読んでいると丁寧に本を下げられカオがじっと見つめて来たのである。真っ直ぐに不思議そうな顔つきで、とても近い。息をすることも躊躇うくらいの距離に、キスでもされるのではないかと胸の鼓動が速くなった。
「カオ…」
我慢できず口付けようと顔を近く寄せようとすれば、カオが先に口を開いた。
「やっぱりガウェインの言うことは間違っています。ジークフリートさんの瞳、竜だから金色だって言うんですよ。竜でも緑色や緑色の目をしている個体もいますよね、どうしてそんなことを言っていたのか…」
「そ、そうだな、教えてやらないといけないな…」
スッと本をカオは戻すと、何もなかったように……実際何もなかったのだが、さっさとどこかへ消えてしまった。
「……ッ」
こんなことでキスしたくなるだなんて、自分は何とやらしいサーヴァントなんだとジークフリートは顔を覆った。本はどこまで読んだかわからない、バラバラと音を立てて自然と閉じてしまった。
「ガウェインさん、ジークフリートさんの瞳は緑色でしたよ」
「おや…竜といえば金色だと思っていました。ぬぬぬ…」
これは特にガウェインが仕組もうと思い言い出したことでは無いのだが、結果的にジークフリートを振り回してしまった。嫌味無く天然を振り撒いてしまうガウェインに、まだまだ苦悩するだろうジークフリートは本をまた最初から読み始めるのであった。