96万ドル
清夏の一日だった。
一週間ガウェインの主人のところへ借り出されることになったジークフリート。よく働くと嗟嘆され、御礼にと野菜を恵贈された。
「実に良い土になりました!主人が腰を壊してしまい、人手が不足していたのです。助かりました」
「助けになったのであれば何よりだ」
ガウェインは太陽を呼び込みながら働き、土を耕し、苗を植えた。素晴らしい働きをする人物に褒められると心地良いものである。
「サーガウェイン、折り入って頼みがあるのだが…」
「はい!何でも、力になりましょう!」
休憩をしているところ、ガウェインにやっと宿望を伝えることができたジークフリートの願いは電話である。そんなことで改まる必要は無いのにとガウェインは大笑した。家の電話を借りることになったジークフリートは、初めての番号へと指を伸ばしてドキドキ、受話器の呼び出し音にも胸をドキドキとさせた。
最初に出たのは給仕の者だった。代わるように願うと、笑いながら少し待つようにと伝えられる。
『はい』
『カオ、俺だ。突然すまない』
『ジークフリートさん!どうしたんです、怪我でもしましたか…?』
『いいや、元気だ』
『何か必要な物が…?それとも、帰りの日が延びたのでしょうか』
『いいや、カオは……元気なのか』
『はい。あの、ジークフリートさん…?』
『ずっとカオの声を聞きたいと思っていた。用事はそれだけなのだが、邪魔をしただろうか』
『……私も、声を聞きたいところでしたから、邪魔ではありません。元気そうで安心しました』
『カオが元気なら、俺も安心だ。すぐに帰る、帰ったらまたカオの飯を食べたい。やはりあれが一番うまい』
『次はハンバーグ、上手く作りますね!沢山作って…待っていますから、その…気をつけて』
『ああ。楽しみにしている』
その時ジークフリートがした優しい顔を見たのはガウェインだけ。何の電話をするかと思えば、とんだ惚気を見てしまったガウェイン。思わずジークフリートの背中をバシッと叩いた。
一方でカオの方ではずっと赤くなりながら髪をくるくると指に巻き、話をしているカオを多くの者が見ていた。
「カオ様、ジークフリート様は何と?」
「ハ、ハンバーグが食べたいという話です!」
「ハンバーグの話にしては告白でもされたような顔つきでございます」
受話器を置いたカオはそう揶揄われて、また顔を赤くしていた。
ジークフリートが帰った日、てんこ盛りのハンバーグが用意されていたことは言わずもがな。恥ずかしい電話をするなら先に言っておいて欲しいと言うカオに、そんな電話をしただろうかと首を傾げるジークフリートも良い晩餐になったのである。