「あのねフット…お願いがあるの」

おずおずとカオが話しかけて来た。珍しい様子のカオに、フットは気がついた。

「なんだよ今日はヤケにしおらしいじゃねえか」

にやりとからかう様に笑って見せるフットだが、どうやらカオは真剣な様で、まだ元気が無いようであった。

「最近帰り道、変な人がいるの。家まで送ってほしいんだ、けど…」

「気のせいじゃねえのか?お前なんか犬でも願い下げって思うがな」

「そうかな…」

しょんとするカオ。普段なら、引きずってでも連れまわすくせにと思いながらフットは息をついた。

「まあ何にせよ、そんな珍しい奴見てみてえから、ついてってやるよ」

「!ありがとうフット」


内心では、どんなふてえやろうがカオを恐がらせてやがんだと犯人をボコボコにする気でフットはいっぱいであった。

暗い帰り道、しっかりと抱きついて歩くカオに、少しだけ緊張しながらも歩いた。
何かわからないものを恐がっている様子のカオに、フットは普段と違って女らしさを感じていたのだ。

そして、背後から何かつけられているかのような気配も感じた。

「フット…誰かついて来てるよ…」

「ああ。本当に居やがったみてえだな」

フットはグッと自分の方にカオを抱き寄せる。

こんなことをしてもらえるのはちょっと嬉しいかも、などとカオは思った。

「おいテメエ、カオにつきまとってどうするつもりだ!面見せやがれ!」

フットが叫びながら振り向くと、そこに立っていたのはクリーツ監督だった。
ゴホンと咳払いを1つ。

「どういうつもりも無い。ただ夜になるまでダークに居座っている女性がいるから様子を見ていただけなのだが」

「あ…」

「え…」

予想外の人物に、カオもフットも驚きを隠しきれない。

「そうだな、夜道のエスコートは旦那様がやるべきだったようだ」

「だ、旦那じゃねえ!」

「そんな風に身を寄せ合って歩いているのに、か?」

フットはあたふたとカオと距離を取る。引き離されるカオは、名残惜しく思っていた。

「逢引もほどほどにな」

監督は、後は任せると手をヒラリとさせながら帰って行った。

「監督だったね」

「監督だったな」

さりげなくまたフットに身を寄せるカオ。旦那様、という冗談がとても嬉しい。

「お前ずっと監督だってわからなかったのかよ、たく…明日からいい笑い物だぜ俺は」

「ご、ごめん…」

「最初に監督やらオーナーやらに相談してりゃすぐわかっただろ」

「だ…だって」

カオはまた珍しくモジモジと赤い顔をして、フットから目をそらした。

「フットを頼りたかったんだもん…一番頼りに思ってるから」

「な…」

「今日はありがとう」

こんなにコイツはかわいかっただろうかとフットはオイルが熱くなった。

「俺は…」

フットは前々からカオに言おうと思っていたことがあった。…ような気がする、という方が正しいのかもしれない。

カオは自分のことを考え、好きでいてくれる。その気持ちに答えていない。その答えを今なら自然と言えるような気がした。

「俺はカオを」

フットが言いかけたその時、ビビー!とクラクションが鳴らされた。
そのクラクションを鳴らした車には、アームとマスクが乗っていた。
フットはタイミングの悪い兄弟と自分の運を恨んだ。

「フット、歩いて帰らなくても車で送って行きゃいいじゃねえかって追いかけて来たんだが」

アームはカオの肩に手を置いてやけに距離の近い二人をまじまじと見た。

「邪魔したみてえだな」

「ご、誤解だぜ兄貴!何もしてねえ!いやー助かった!セーフ!乗って行こうぜ!」

「ウソ!俺は何って言いかけたの?フット!ちょっと!」

変わらない兄貴だとマスクは一人、静かに考えていた。