流れ出し
「どうでしょう…」
カオの姿に一驚する。純白ドレスに身を包んだカオはとても優美だ。感嘆しようとするが、見惚れてしまって言葉が出てこない。
「やはりこういったものは似合わないですか?でもきちんと華美な衣装を着なければと…あの」
「綺麗だ」
振り絞り出てきた言葉はそれだった。隠れようと後退りしていたカオの手を取り、帰ってしまわないように捕まえるともう一度呟いた。
「お愛想を言わなくとも…」
「本心だ。阿るつもりはない。とても綺麗だカオ」
カオがちょっと照れ笑いをすれば、パアッと花でも咲いたかのように華やかで普段よりも眩しかった。とても強力なバフでもかけられたかのようにカオの笑った顔が心を突き刺した。撃ち抜かれた、と言った方が正しいかもしれない。ジークフリートは胸を抑えながらしゃがみ込む。
「ウ、心臓が…」
「だ!大丈夫ですか!……霊基の異常でしょうか、今日は…やめますか…?」
ブンブンと首を横に振る。今日は舞踏会である。と言ってもそこまで畏まった舞踏会では無く、盆踊りのような、街の催し物であり誰でも参加できるものだった。娯楽が無い街では次から次へと催しを考えるものと住人は受け入れているのだ。チャリティーも開催され、とても理にかなっている。
「燕尾服でも背中を晒さないといけないのですね。ふふ、涼しそう」
「特注させてしまった…すまない」
そんなことを話していれば、知っている顔が寄ってきた。燕尾服のトリスタンである。
「貴方も来ていたのですね」
「この人の数でよく見つけられたものだな」
「わかりますとも。そのようなおかしな燕尾服を着ているのは貴方くらいで……む?」
トリスタンはジークフリートからカオへと視線を動かす。撃ち抜かれた音はジークフリートにも聞こえるほどだった。
「ウウ、胸が…」
「トリスタンさん大丈夫ですか!どこか異常でも…」
胸を抑えてしゃがみ込むトリスタンを心配するカオに首を横に振って見せるトリスタン。
「心配はいりません、イブニングドレスがとても良い…カオも参加しているとは思いませんでした」
「いつも参加はしません。お見合いと張り切る人もいますから、あまり好きでは無くて。でも今はジークフリートさんが居てくれますからね」
「私とも踊って頂きたい。そのくらいは許されてもよろしいかと思いますが、どうでしょうか」
トリスタンがジークフリートの方に目配せすると、顔を顰める。だがしかしカオはそんなこと気が付かずに一曲を許した。何故なら一曲だけならばすぐに終わるだろうと思っていたのだから。
「ひゃ!ごめんなさい、また私…」
「いえいえ、お気になさらず。私が何度でも受け止めましょう」
何度もボフッとトリスタンに受け止められてしまうカオを保護者のように心配して監視するジークフリート。
本当ならばカオを受け止めていたのは自分であったというのに。アーチャーも何が一曲だ、ずっと踊っているじゃないか。
あまりに一人で立っている為か、ジークフリートは女性から「一曲お願いします」と声をかけられる始末。気分が優れない、今日はそういったことで来ているわけではないなどと断り続け、次第に居辛くなってきた。ジークフリートはそっと抜け出し、ダンスが終わるまで星空を眺めていた。
ぞろぞろと帰って行く人々を横目に、ああ終わったのだなと確信する。カオは何処だろうか、あのままアーチャーと踊り続けたのだろうか。そう考えながら人の列を目で追っていると、カオがヒョコリと建物から出てきたのだった。
「ジークフリートさん!」
「カオ、終わったようだな」
するとカオは歯をくいしばりへの字口をした。
「ジークフリートさんとは踊れませんでした」
「しかし俺で無くとも他の者が居たじゃないか。誰であろうと踊れたことに変わりはないと俺は…」
「離れ方が、わからなかったのです。私はジークフリートさんと踊りたかった」
スンと鼻を鳴らして、カオは目を擦った。
「ジークフリートさん、ずっと外にいらっしゃったのですか」
「ああ。それも…まずかっただろうか」
「……いえ、他の方と踊っているものだとばかり」
「まずいことなのか?」
「妬いてしまいます」
カオがヤキモチだなんて、想像もしていなかったジークフリートは少し恥ずかしくなった。妬いてしまうなんてこと、自分ばかりだと思っていたのだから。
「私は…踊るに値しませんか?」
「いいや、一度手を掴めば離したくはないくらいに…カオとは、つまり、そういう」
手をジークフリートの方から繋ぐと、その先喋らず黙っている。
「私も、離されたくありません」
先に口を開いたのはカオだった。へらりと笑って、照れて、うつむいた。ジークフリートは身体を寄せてカオの肩に頭を置くが、まだ黙っている。
ジークフリートが「あついな」とポソリと声を漏らしたのはもうしばらくしてからだった。
「今日は冷えますよ」と笑ったカオにまたジークフリートは黙ってしまうことになる。