パシー
「ジークフリートさん、お茶は飲めますか」
「……」
こくりと頷くジークフリートにカップを渡す。このジークフリートはいつも居るジークフリートではない。いつものジークフリート曰く、生前のジークフリートに近い存在なのだと言う。その為喋ることができないのだ。
「ジークフリートさんが2人居るなんて、不思議なことになってしまいましたね」
「ああ」
朝、カオが目覚めるとそこにもうひとりのジークフリートが居た。初めは受け答えをしないジークフリートを病気か呪いを受けたのだと思ったらしい。クラスはライダー。
「何を考えているのか自分でもわからない…喋らないとはこんなにもわからないものなのだな」
「喋ることのできるジークフリートさんも何を考えているかわかりませんよ」
カオの言葉がグサリとジークフリートに突き刺さる。
「それになかなか、かわいらしいと思います」
「好きなのか?」
「す…好きとか嫌いとか、だってこの人もジークフリートさんですから、……好きですよ」
嬉しくもあり、ショックでもあり、複雑な気持ちになった。カオが自分ではない者に好意を向けていることが少し、気に食わない。ついム、としてしまう。
「……」
モジモジしているカオに生前ジークフリートが近づいた。何を考えているかわからないが、カオに向けているその目は真っ直ぐだった。
そっとカオの手を取ったかと思えば、生前ジークフリートはカオの手のひらに指で何かを書き始める。ゆっくり、丁寧に。
『ス、キ、ダ』
と。くすぐったい指のメッセージはシンプルでわかりやすかった。仏頂面のままで伝えられたそれはカオの頬を赤くさせる。
「俺は何と?」
「秘密です」
「ム」
「ただとても嬉しいことです。私は嬉しい」
言葉を書かれた手を大切そうに自分で握り、カオは微笑んだ。