さばの缶詰
「シ、シス……いっしょに行っても、良い?」
「構わない。はぐれないようにするんだぞ」
「うん、シス」
カオは移動する時にはいつも背後を着いてくる、隣に並ぶことはなかった。口数は多くないものの、少しずつ喋るようになってきた。それでも笑ったり喜んだりする様子は見られない。
自分も口下手なもので、なかなか気の利いた話題を出すこともできずにいた。シエテならもっとうまく会話を弾ませることができると思うのだが、あいにくシエテはしばらく留守らしい。
キッカケなんて突然にやって来るもので、事件は起こった。甲板に出た時だ。ものすごい突風がカオのフードを奪い取ってしまった。風が止むと、カオはしゃがみ込んで耳を隠した。見られてしまうと怯えて泣きじゃくりながら顔も足に埋めた。
「大丈夫だ落ち着け! ここに悪く言う奴はいない!」
「いや、いや! 見ないで!」
シスは咄嗟に自分のフードを脱ぎ、カオに被せた。膝を突きカオに目線を合わせると、ポタポタとしていた涙が大人しくなった。
「これでどうだ」
「あ、ありがとう。でも、シスが」
「俺は……良いんだ。カオ、落ち着いたか」
カオは頷くと、シスの顔をしばらく見て、それからフニャリと笑った。
それからというもの。
「わたしシスだーいすき」
シスの耳から爪先までピンと伸びた。遠巻きに観ている者たちが「照れている」「照れてるんだな」とにやけるのを我慢していた。すっかりシスに懐いたカオは一日中シスの隣にくっついて過ごしている。
「あ、あまり人前で言うな」
シスの言葉に皆が「人前でなければいいのか」と思っていた。カオはわかったと頷くと、シスの手を握ってヘラリと笑う。うぐぐと唸るシスの声がまた皆の口角を刺激するのだった。