星の数だけ
「シス! おかえり!」
ぱたぱたと早足でカオはシスを出迎えると、すぐにお腹あたりを目掛けて飛び込んだ。おかえりおかえりと伝えるたびにカオはぎゅーぎゅーと背中に回した手に力が入る。
面映ゆくなりシスは言葉に詰まるが、抵抗はしなかった。だがじわじわと集まる視線に汗をかき始める。
「シスさん他所でやってくださいよ」
カトルのぼやきが聞こえたシスはカオを慌てて引き剥がした。「えー! もっと見ていたいのに!」とシエテが叫ぶ。
「俺は寝る!」
そう叫んでシスは部屋に入ってしまった。
「シスは怒ったの?」
「照れ隠しさ。カオちゃんには怒っちゃいないよ。俺は……後で怒られるかもしれないけどね」
苦い顔をするシエテに八の字眉になるカオ。「がんばる」とだけカオは呟くと、部屋に向かった。どういうことだろうかとシエテは首を傾げたが、その言葉に追及はしなかった。彼女なりに思うところがあったのだろうと背中を見送ることにした。
本当にそのまま寝てしまったシスは朝を迎えた。あくびをしながら洗面に向かうところ、カオに出会った。また抱きつかれるのだと思い身構えるが、カオはおはようも言わずに少し会釈をしただけで過ぎ去ってしまう。
その日も、次の日もそのまた次の日も何もカオからのアプローチが無かった。何かあったのだろうかと心配になりつつも、カオが何もしてこないだなんて恥ずかしい相談もできずに一人シスは悩んでいた。
「シスくん?」
ぼーっと空を眺めていれば、やはりこういう時に目敏いのはこの男で。シエテは物珍しそうな顔をして隣に並んできたのだった。
「何か悩み事かな」
「悩みなどない」
「でもさー最近、カオちゃんはシスくんのところに行かないよね」
エスパーかこいつは。図星がズビシ。シスが黙っていると、それはイエスということだなとシエテは受け取った。
「前にカオちゃん、頑張るって言ったんだよね」
「何をだ」
「それが分からなくてさ、シスくんに聞こうと思ったら一緒にいないでしょ。何を頑張っちゃってるのかなー」
聞いてみてくれない? と笑うシエテ。企んでいることはわかるが、今は少しだけありがたいと思った。シエテに言われて仕方なく聞きにきた、ということにすれば良いのだから。
カオを探せば、ソファーに座って本を読んでいた。会話の練習と、言葉の幅を広げたいのだと聞いたことがある。有無を言わせずに隣にどかりと座れば、カオは本からこちらへと視線を移した。驚いたその顔は動物のようで、目はまんまるだった。
「俺を避けているのか」
「シス」
「俺が嫌になったか」
まんまるなまま、カオは首を横に振った。ならどうして話しをしないと声を少し荒げてしまい、またカオは驚いていたが、自分でも焦っていることに驚いた。
「シス、前に困ってた。わたし、話せばシスと一緒に居たくなる、だからやめてた」
頑張るって言ったんだよね、とシエテの言葉が脳裏をよぎる。頑張るとは自分と話さないようにすることだったのかとわかると、ハア、と意図せずため息が出た。
「俺は困らない」
「じゃあ、触っても良い……?」
シスは頷くと、前のようにガバリと抱きしめられるのだと構えた。しかし触られたのは指先だけで、カオの顔を確認すればフニャリと笑っていた。抱きしめられることよりもドキリとした。なぜだろう。
「シスだいすき」
「ああ、俺もだ」
「シスは自分のことだいすきなの?」
「な、ば、ばか、これはおまえが俺を好きで、反対にだから俺が、クソ……わからないなら、良い」
さらりと自然に想いを伝えてしまったシスは自分の言ったことに赤面したものの、カオはよくわかっていないようでキョトンとしている。助かったような、残念なような。
「シス、すき」
「ああ」
「シスだいすき」
「ああ」
ふにゃふにゃ笑いながら、カオは肩に頭を預けてきた。留守で会えなかった期間の方が長いはずなのに、ここ数日の方がずっと長く感じていた。少しだけ頭をカオの方別傾ける。久しいカオの感触とぽかぽかした声に安心してそうしていると、いつの間にやら居眠りをしてしまうシスなのだった。
「他所でやれと言ったのに」
「そんなこと言って見に来たのは君の方でしょ」
カトルはギッとシエテを睨む。寄り添って眠る二人を見て口には出さないが安心しているカトルに、エッセルがカトルは優しいねと和やかに言った。