少し会う
『また逢えるおまじないをかけるからね』
そう言って贈り物にキスをする男。カオは遠巻きにその様子を見ていた。喜ぶ女性のことも。
待ち合わせ場所でカオは一人。十天衆の任務で留守にしていたシスが近くまで来ていると連絡があり、それを待っているのだ。冷えた手を擦り合わせて、はあっと息を吹きかける。手をあたためて待つ、手袋をしてくれば良かったなどと考えていると待ち人がやって来た。
「待たせたな」
シスはカオと合流できると、くんくんと自身の腕の匂いを嗅ぎ、血の匂いがついていたらと気にし始める。
「せっかくの、その、逢引きだ。血生臭くては」
シスが腕から顔を離すと、やおらカオが確かめるように鼻を近づけて来た。シスの胸をスンスンと匂うと、ふへへと微笑む。
「大丈夫」
「そ、そうか」
思わず知らずシスは後ろ頭を掻いて、カオは顔に紅葉を散らす。言ってみれば二人とも照れている。外に出て二人きりになることはあまり経験が無かった。
「団長が、おすすめのところ教えてくれた。一緒に行って……くれる?」
カオが紙を渡すと、シスは紙をじっくりと見た。紙は団長が切り取った雑誌のページ、写真も載っていた。来る途中に見たような気がする、赤い看板が目立つカフェのようだ。一人で場所を把握したシスは歩き始めようと身体の向きを変えた。
「行くか」
「う、うん」
シスの背後を歩きながらカオは少し顔が緩んでいた。十天衆のマントがヒラヒラとしながら、シスの背中を守っている。背中が広いな、とカオは口角を上げた。そんなこと知らずにズンズンと前を進むシスだったが、突然足を止めて後ろを振り向く。自分とカオとの距離に頭を掻く。
「速いか?」
「ううん、大丈夫」
「手を貸せ」
伸ばされたシスの手を握ると、シスはその手の冷たさに目を見開いた。寒空の下、カオは待っていてくれたのかと痛感する冷たさ。カオの手を掴んだまま、自分のポケットへと手を突っ込むと再び歩き始めた。
「シス?」
「手を暖める」
「うん、ふへ、ありがとう」
シスとの距離が近くなったカオは、少しシスの腕に頭を預ける。
そこにブーブーと通信機が揺れた。
『なんだ』
『シスくんシスくん! 戻って来られる? 数がいるんだ、頼むよ!』
シエテの声にハアとため息をつくと、シスはカオに目をやった。まだ会えたばかりだと言うのに間が悪い男だ。カオが自分から手を離す、それは事を理解した証拠である。
「団長のところで待ってる」
「すまん、そうしてくれ」
カオの目がキョロキョロと泳ぐ。言いたいことがあるのだろうか、無理も無い、すぐにほっぽり出してしまったのだからとシスは慰められる言葉を探した。すると、意を決した顔をしたカオが顔を近づけて来た。慌ててなんだと聞く間も無く、カオに触れるだけで音もないキスをされた。仮面に。
「なな、なにっ」
「お、おまじないなんだって」
「……ッ、まじな……いや、それより、う、ぐ」
シスはマントを脱ぐとカオを隠すように被せた。
「身体を冷やすな! 持っていけ!」
乱暴に渡されたマントをしっかりと抱いて、うんと返事をした。マントを顔から外し、視界を開けた頃にはもうシスの姿はなかった。
「シスくん上着は?」
「動き辛いので捨てた」
「酷くない?!」
突然招集した当て付け?! と、シエテはオイオイ泣くフリまでしていた。カオに預けてあるなんて言えば、詳しく聞かれるに違いない。今回は特に詳しく聞かれるわけにはいかないのだ。