カトル
ぐちゃぐちゃになれば良いと思った。
初めて見たカオさんは床にしか目が向かないで、シエテさんが作ったフードを深く被っていた。そんなに酷いものでもない、もっと酷い面をしたエルーンも見たことがある。それでも彼女にとって左右で違う耳は大きなコンプレックスで、トラウマで、生まれついてから備えてある癌のようなものだろう。
自分の所へ来ないかと誘った。誘いに首を縦に振ることはなかった。シスさんは知らない、シスさんに会わせる前に星屑の街へ来るように誘っていた事を。
それがどうして、カオさんはシスさんに懐いてしまった。なんてことないことからシスさんを好きになって、見るたびにくっついて甘えている。笑ったり悲しんだり、いろんな顔をシスさんには見せていることが事実。何故だかむしゃくしゃとした。胸を掻きむしりたくなった。
シスさんもまんざらではなさそうな顔をして彼女を受け入れつつある。それがまた神経をイラつかせて、知り合いでなければどうにかしていたかもしれない。
「恋ね」
「ハア?」
うっとりと聞くファスティバをカトルは睨んだ。酒を飲める歳ではないので、酔うはずもないのに雰囲気のせいだろうか、カトルはトロリトロリと意識がぼんやりしていた。
「シスくんとカオちゃんが仲良くなって、どこか落ち着いていられない……恋だわね、うんうん」
「そんなわけないでしょう。ぼくはただ、シスさんをからかうことができて楽しい……だけですよ」
フンと顔を晒すカトルにファスティバは、今は理解できないのかしらねと一人でうっとり。
「もうすぐカオちゃん、戻って来るわよ。今日はシスくんいないから、話してみると良いんじゃないかしら」
カオはラードゥガの手伝いを仕事にしている。話を聞くこと、色んな人を見ること、たまに編み物や家事を習いながら働いているのだ。ファスティバが一人で切り盛りできるラードゥガであるが、ここで愛しい人を待つには働かなくっちゃね!と張り切ってカオを誘って来たのはファスティバの方である。
「新しいお手拭き、持ってきました」
「ありがとうカオちゃん。カオちゃんが一枚一枚手洗いしてくれているから、いつも良い匂いで助かってるわ」
カトルはジュースをごくり、一口。カオはカトルに頭を下げると、皿洗いを始めた。
ごくり、ごくり。ごくりごくりごくり。
カトルは突っ伏し、酔っ払いのようにウトウト。こんな駄目な大人のようなことをしたくはないのに、何故だか何もしたくない、駄目で偉そうな大人もこういう気持ちで酔っ払いになるのだろうかと考えた。
やはり、いつのまにかカトルは眠っていた。
「悪酔いしちゃうタイプね、カトルくん」
「おこしますか?」
「いいわ、今夜は寝かせてあげましょう」
カオはカトルに毛布をかけながら、ファスティバの笑みの意味はなんだろうと考えた。きっとその意味はずっとわからないままだろう。