星空
たくさん転がっているそれらはもう息がない。
何かの液の中へ漬けられているそちらは、死なないギリギリのところで生かされている。
自分は失敗策で、両の耳が違う種類のエルーンに生まれてしまった。買い手もつかず、主人の好みでもなく、なぜ生かされているのかといえばただただ雑用を任されているだけだった。顔も……顔だけは好みのものに近かったらしい。それが救いなのか不幸なのかはその頃にはわからなかった。
本当の救いは突然にやって来た。
施設は騎空団により閉鎖され、主人も捕まった。自分は行き場は無く、ついて来てと言われるがままに連れて行かれたのだ。
昔のことを夢に見ることがある。恐くて恐くて、もう一度寝ようなんてことは決して思わない。時計を見れば、まだ朝にも早すぎる、夜には時間が経ちすぎている時間である。
部屋の外に出れば冷たい風が強く吹いていた。上着を取りに戻ることも考えたが、あの恐い夢を思い出すと、ドアを開けることすらとてつもない恐怖のように思え躊躇した。
そのままふらふらと歩いて艇の端まで行く。醜い不恰好な耳を剥き出しにしていても、今は誰も見ることはできない。暗闇が隠してくれるだろうと、そのままで星を眺めていた。
いちばん最初に出る星は確かあそこ、と一点を見つめていれば「おい」と背後から背中を叩かれる。慌ててフードを目深に被ればそこに立っていたのはシスだった。
「な、なんだシスだった」
「なんだ、じゃない。風邪をひくぞ」
シスは上着を脱ぐとカオに羽織らせた。
「いいよ、シスが風邪ひいちゃう」
「鍛え方が違う。お前が着ていろ」
フンと鼻で返事をするようにして、シスは腕を組んだ。
「何をしている」
「目が覚めちゃって、シスは?」
「見張りの交代だ」
「今から?」
「今交代したところだ」
そうなんだと話すカオのフードは風で外されている。それでもカオは気にせずに話していた。
「あ、ほら、シスもそれなら、やっぱり冷えてる。手、ね?」
カオはシスの手を触り、冷たくなっていたその指を自分の手で包み込んだ。揉み込むように温めていく。そんな中で、あらわになっているカオの耳を改めてシスは見た。長さどころか種類の違う耳に愛しさを感じている。それを言えばカオは怒るかもしれないが、どうあったとしてもカオのことを、カオのどこも愛しいと思えるのだ。
「シス、お腹減らない? 疲れて、ない?」
「気にすることはない。カオが眠れるようになるまで居てやる」
ほへへとカオは照れくさそうに笑った。シスは座ると隣を叩いて、座れと合図をする。カオはすぐ側に座った。
「わたしね、シスに会えて本当によかったなって思うの」
「きっとわたしは、あのまま醜い者として、ううん……生き物として扱われていたかも怪しい」
「抜け出すこともできたと思う。でもきっと、どこへ行ったって、こんな自分じゃ居場所がないと思ってた」
「シスはあったかいね」
カオが話すことに黙ってシスは耳を傾けていた。化け物扱いされてもしょうがない自分と、作った物の身勝手で醜い者扱いされてしまったカオを重ねて。
「カオは俺の過去を知らないだろう」
「知っていたら、シスは嫌?」
「それは……」
わからない。知らないでいて欲しい気持ちと、知って受け入れて欲しい気持ちがあった。
「どんなことがあっても、どんなことをシスがしていたとしても、わたしは今シスを好きになっているから。もし過去を知っても、それは過去で、今は今……だから、ね」
「フフ」
シスは困っているカオの身振り手振りに笑ってしまう。
「もし俺を嫌いになった、としても……俺はカオを好いている」
それは変わらないのだ。
「シス」と呼びながら腕に寄りかかり、カオはフードを深く被った。どうしたと声をかければ、カオは「恥ずかしいからあんまり見ちゃだめ」とますます深くフードを引っ張り被る。俺も仮面をしていて良かった。