ストック

「買って、しまった……」

シスは1束の花を握る。つい勢いで、名前もわからない黄色い花を買ってしまった。

こんな花束なんて持って帰れば、どんなにからかわれることか。シスはしばらく悩んだ後、タラップを使わずに一目のつかない横側から乗り込むことにした。一見コソ泥のようだが、冷やかされることに比べるとなんてことはない。自身の身体能力に感謝しながら、ロープを利用して登っていく。

甲板が見渡せる辺りで、周りに誰もいないかを確認しようと恐る恐る顔を覗かせた。

「シス?」

バッチリ目が合ったのは意中のカオで、花を届けたい相手のカオで。こんな所でどうしたのと近寄って来る彼女に顔が熱くなる。

「落ちそうなの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だ気にするな」

よじ登りシスが艇に乗り込むと、カオはヘラリ。シスはというと目を合わせられずにフンと言うだけ。

「泥棒かと思って驚いた。シス、おかえり」
「ただいま」

花を背中に隠しながら顔を逸らす。こういう時、きっとシエテならヘラヘラとすぐに渡すのだろう。

「カオ」
「うん?」
「今日は、その」
「なあに」
「……ッ、やる」

花を出す。カオはキョトン。どうしたのと不思議そうにするカオに、シスはカーッと顔が赤く熱くなる。

「だ、黙って受け取れ!」
「う、うん」

花束を受け取りながらカオはじっと花を見る。何が何だかわからない、という顔だ。

「貰ったの?」
「違う」
「拾った?」
「いいや」
「これ、シスの部屋に飾っておけば良いの?」
「馬鹿なッ! 俺の部屋に飾ってどうする! カオの部屋に飾れ、ば、いいだろう……」

しばしの沈黙の後、嬉しいとカオはふにゃりと笑った。

「この花、名前なあに」
「知らん」
「誰か知ってる人、いる?」
「誰にもこのことは言うな!」
「うん」

ストックの花はしばらくカオの部屋を明るくした。カオもシスも花の名前がわからないため、花言葉はわからないままだという。