遠くのまち

どこか遠くのまちで。そうは聞いていたのだが、まさかこんなに遠くのまちが行き先になるとは。

ホウエン地方、ミナモシティ。

「船は初めてですか?」とジュースを買って来たマクワは穏やかに笑っている。初めてで驚いているのは、そっちのことじゃないとカオは船が起こす波の白を見つめながら考えていた。

「良いんですか、ジムを空けて」
「知りませんか。ジムリーダーにだって休日はありますよ」
「そ、そうか、人間ですもんね」

タウンマップを開き、ミナモシティの観光名所を調べたり、おすすめのスイーツをチェックする。ズイッとマクワが身を乗り出して「ここも良いですよ」とオススメを見せてきたりする。変な感じ。

「ミナモびじゅつかん……へえ、ってこのまち、トレーナーファンクラブなんて建物がありますけど! マクワさん大丈夫なんですか!」
「平気ですよ。そこに乗り込んだりするわけではないし、それに言ったじゃないですか。バレたらその時は紹介をさせていただきますって」

わざとらしくウインクなんてして、マクワは笑った。爽やかに調子に乗っているが、そんなことになったら大騒動で大炎上に決まっている。絶対バレてはいけない……と、カオは心に誓った。

それはそれとして、有名なものは気になるもので。

「マクワさん、ここのデパートはぬいぐるみで有名みたいですよ!」
「どれどれ」
「チルットドール見てください! チルタリスもこんなに小さかったんですよね。かわいい」
「おや、ぼくはてっきりこっちのラプラスドールが気になるんじゃないかと」

かわいいーと雑誌に目を輝かせてあれやこれやと話に花を咲かせる。楽しい時間だとはしゃいでいれば、船のアナウンスがもうすぐ到着することを知らせてきた。まちが見える。船の進む方向へ向いている窓を見るのはとてもドキドキする。

カオが船を降りるスロープの最後をジャンプして道に降りれば「転びますよ」と言う笑い声がした。

「だってこの地方にはホエルコがいっぱいいるんですよ! 写真でしか見たことない大きなポケモン!」

そう笑ってはしゃいでいれば、スッと手を差し出された。おやつの催促かと呑気なことを考えていれば「離れないでくださいね」と言われた。手を繋いでみれば、スボミーみたいにへらりとマクワが笑う。人のいるところで手を繋ぐのは初めてで、なんだか照れ臭い。

「びじゅつかん、行ってみますか」
「どこへでも、マクワさんがいたら楽しいですよ」
「あなたはまた……」

キャモメの群れが飛んで行く様子を目で追いながら返事をしたそれは、彼にはとても効いたらしい。