そんなところも


真っ暗になっていた。窓の外は真っ暗な海しか見えない。時々、どこかの島の灯りが見える。

あんなに日中はしゃいでいた(かわいい)彼女が、船で席に座るとすぐに大人しくなった(かわいい)。なんだかんだでラプラスドールを買って自宅に送るように手続きをしたのに、しっかりチルットドールも買って袋に入れたまま抱きしめている(かわいい)。かと思えばすぐに眠り始めたのでよほど疲れていたのだと思う。始終ぴょんぴょんと跳ねて騒いでいた気がする。

寝ているか顔を見て確かめたいマクワだが、こっくり寝てしまったカオが肩に頭を預けてきた(かわいい)ので身動きが取れない。手を繋いだことはあっても、あまり彼女の方からスキンシップをとってくることはなかったのでドキドキする。

ここまではなんだかくすぐったくて、デートもできた、思い出もできたと舞い上がりたい気持ちであった。この後、カオがいくら声をかけても揺さぶっても起きず、船から降りる時も、アーマーガアタクシーに乗る時もマクワがおんぶをしてチルタリスが支えてと大変だった。一度寝たら起きないという人間がいると聞くが、まさかここまで起きない人間がいるだろうか。

しかもマクワはカオの自宅を知らない。仕方なく自分の家にカオを連れ帰ると、ベッドに転がせた。もうヒイヒイハアハアで、ヘアスタイルも乱れまくり。申し訳なさそうにするチルタリスに苦笑いすると、カオに布団をかけた。

恋愛ドラマや漫画なら、自分の部屋にいる彼女にムラムラドキドキするものかもしれないが、長旅の帰りにずっと彼女をおぶさって来たのだから疲労困憊である。マクワはカーペットに横たわって、気がつけば眠っていた。



朝、真っ青になったのはカオ。
遠くのまちのデート帰り、それから自分はどうあってここにいるのかまるで覚えがないのである。床にはマクワが転がっている。恐る恐るに自分の姿を確認して、服をちゃんと着ていることにはホッとした。

そうなると彼の方はどうしたのだろうか。ベッドから抜け出し、大丈夫かと肩をポンポンと叩いてみる。

「マクワさんマクワさん、あの」
「ん……」

珍しくボッサボサな頭をしているマクワをかわいいと三秒凝視して、もう一度肩を叩く。

「ああ、おはようございます……」
「マクワさん、すみませんわたし……」
「起こしたんですが起きなくて」
「はい……」
「運んだんですが、家を知らないので」
「は、はい」
「ここに連れて来ました」

かっこ悪すぎて言葉を失う。ごめんなさいと何度も謝っていると、マクワもカーペットから起き上がった。

「荷物はチルタリスが運んでくれましたよ」
「すみません……」
「気にしないでください、ぼくは……」

手櫛でマクワの寝癖を直そうと髪に櫛かけしていると、マクワは言葉を止めた。

「チャラにします。大丈夫ですよ」
「え、どうして」
「良いと思ったからです」

マクワは立ち上がってそのまま台所へと歩いて行った。コーヒー要りますかの声にはいと返事をすると、コーヒーの良い朝の匂いがした。

「朝ごはんも食べますか? その前にシャワーとか使いたいならどうぞ」
「そ、そこまでは! 家でちゃんと入ります……あ、朝ごはんは一緒に食べたいです」

パンの焼き上がりまで待ち、コーヒーをすすって、寝癖いっぱいのマクワを眺めていた。「寝癖マクワさんかわいいから、朝の姿はまた見たいですね」とへらへら笑いながら言うとマクワはコーヒーを吹き出していた。