季節限定

「カオさんがパティシエ教室に行ってる!?」
『知らないんだねマクワ。ちょうど見かけてさ、頑張ってるねえ』

いつもならさっさと終了する母からの電話だが、マクワはもっと詳しく! そう熱くなっていた。

「ぼくは何も聞いてませんよ!」
『言うわけないじゃないのさ、あんたに』
「相手が相手だから頑張っているとは言っていましたが、まさかそんなこと……誰です相手は!」
『あ。ふうん、なるほどね。まあライバルが多いとは言っていたかなー。あたしから見ても、大変だと思うわ』

母さんから見ても大変というと、一体誰なんだ!
きっと高級志向に女たらしに違いない! マクワはギリギリと歯を食いしばった。これはバレンタインには絶対、絶対絶対絶対に何処の馬の骨かわからないが、一言ハッキリ言ってやらなければ!


「カオさん!」
「は、はい」
「誰なんです!」

朝の弁当を届けに来たカオに、マクワは叫んだ。それは大変イライラとした様子で、普段のマクワとは全く違う顔だった。明らかに不機嫌だと顔に出ている。

「ぼくは聞いていませんよ。どこの、誰に、バレンタインで勝利するというのか」
「えっ」
「カオさんにバレンタインを貰える幸せ者は誰です!」

隠しても探し出しますよと腕を組んでムッとするマクワに、カオはどうしてそんなことになったのかポカンとするしかない。

「マクワくん」
「はい」
「だから、マクワくんに」
「えっ」

バッグからラッピングされたチョコレートを取り出して「だから持ってきたの」と証拠を見せる。

「ぼくに」
「うん」
「ぎ、義理では」
「本命だよ」

チョコレートを渡すと条件反射のように受け取り、ポヤーとしているマクワ。

「相手が相手だからっていうのは」
「マクワくん、ファンの人からたくさん貰うでしょ」
「バレンタインに勝つってつまり」
「ファンの人たちに勝てなきゃと思って」
「パティシエ教室に行っていたと聞きました」
「だ、だって、お店で売っているものは全部ファンの人がプレゼントしているし……」

マクワはてっきり他に渡す相手ができたものだと思っていた。自分のために頑張っていたのかと思い、じっとチョコレートを見る。

「他に聞きたいこと、ある……?」
「い、いえ」
「わたし、マクワくん大好き。だから頑張った」

『マクワくん大好き』が一撃必殺。ボッとマクワは赤くなった。

「そ、これ、後で頂きます!」
「マクワくん顔真っ赤」

サングラスをかけてくるべきだった。取り乱してマクワはあっち見たりこっち見たり。ジムの奥からそろそろ時間ですよーと呼び声が聞こえると、これ幸いとマクワは返事をした。

「時間です、また、だから、行ってきます」
「うん。頑張って」
「チョコレートを貰ってこんなに嬉しいことは、なかった……です。カオさんから貰えるものは、特別ですから」

ジムに引っ込んでいくマクワが最後にそう言った。カオはマクワのいつもと違う反応を見られて、バレリーナのようにくるくる跳ねながら帰った。一方マクワの方は御礼を言い忘れたと心残り。