うぬぼれ

『マクワくん大好き』が頭から離れない。

3人目のチャレンジャーの挑戦が終わり、一息つく。テーブルに貰ったチョコレートを置いて眺めているだけで、走り出したくなるような衝動。

「御礼を言い忘れてしまいました」

ツボツボにそう話しかける。あんなに嬉しく恥ずかしかったことはなかった、今まで何を貰っても。気持ちをちゃんと伝えなければいけない、そうマクワは思い立って残りのチャレンジャーを捌いた。


「マクワく……マクワさん! お店に来るなんて珍しい」

仕事をしていると、店にマクワがやって来た。人目を気にして、耳打ちでコソコソと話す。

「すみません、この後会えないかと思いまして」
「良いですけど、まだ終わるまでかかりますよ」
「待っています」

どうしたのだろうとカオは仕事が終わる時間までとてもソワソワとしていた。直接お店に来るなんて、後で電話でもすれば良いのに。エプロンを着替えて急ぎ裏口から飛び出ると、すぐそこでマクワは待っていた。

「どうしたんですか、誰かに見られちゃいますよ」
「どうしてもチョコの御礼を言い忘れたことが気になって。直接が良いかと」
「そ、そんな大それた事……」
「ぼくもカオさんが大好きですから。御礼を言わせてください、ありがとう」

ふにゃりと笑うマクワの顔は、ファンの前とは違うキラキラしたものではなかった。これが素なのかもとカオは嬉しくなり、つられてふにゃりと笑った。

「よかった。マクワくんにはファンとは違う、特別なもの渡したかったから」
「それなら、もうひとつ頂いても良いですか?」
「もうチョコはないけど……」

自分が今何を持っているか焦り、ぱたぱたとバッグやポケットを探る。「チョコどころかお菓子ひとつすら持っていない」と言いぱたぱたしているカオの手を掴むと、マクワは不意打ちで頬にチウ。何をされたかわからないまま固まっていれば「ファンにはこんなことできません」と耳元で囁かれた。

「わ、わ!」
「バレンタインなので、貰えるものは貰わないと」
「貰えるもの!?」

キスされた頬を手で押さえながら、朝とは打って変わって余裕そうにしているマクワを見る。

「チョコもカオさんもぼくが貰いました」

フフンと自慢げにしているマクワ。鼻を明かしてやると思い、カオは言い返す。

「そ、それならホワイトデーのお返しに、マクワくんを貰いますからね!」
「どうぞ」

にこっとしたそのマクワの顔は、先程の素の笑顔ではない作られたものである。自分が意地悪をしているとわかっているからだ。マクワは両手でカオの手を包むと、そこにまたチウ、と口付けを落とした。

「ぼくのものだ」
「……マクワくんだいすき」

ちゅーとやさしいキスに、カオはほにゃほにゃ。マクワの鎖骨に頭を預けて、カオはしばらくほにゃほにゃ。通行人の気配がすると自然に二人は離れたが、ふへへと照れ笑うカオの顔にマクワは安心する。またねと別れた後のフワフワした感覚はどうしようもなく心地良かった。