特定

「マクワくんそこくすぐったい」

腰にまわされた手を少し上に移動させると、カオはこれでよしと目を閉じた。マクワに弱点ですねと言われて首元を嗅がれる。ああだめ、寝てしまうわけにはいかないのだとまぶたと戦いながら、頑張れわたしとひとりで思案する。

「マクワくんのシャンプー使うと、髪がきれいになっちゃった」
「あれ、匂いが違うので自分のものを持ってきているのかと思っていました」
「違う? どんな風に?」
「とても良い匂いがします」

少し照れくさい。背を向けていたカオはぐるりと向き直して、マクワの胸に顔を押し付けた。

「向かい合わせ、いいかも」
「そう、ですね」

マクワも照れくさくなって、腕枕しますかとカオの頭の下に腕を通した。その方が顔が密着せず、ドキドキする胸はバレずにすむのだ。あれだけ寝顔を見ると張り切っていたものの、結局二人はぐーぐーと昼すぎまで眠ってしまった。



「にいちゃん、ねぼすけしてる」

夢に語り掛けてくる声あり。聞いたことがあるような、と考えを巡らせる。「あれ! にいちゃんの彼女!」その声に飛び起きると、部屋に弟が上がり込んでいた。

「どうしてここに!」
「ママが急なお仕事あるからにいちゃんところに行けって鍵くれたの」
「そんな、連絡くらい……」

スマフォを覗くと、着信がいくつかあった。気が付かなかっただけで、連絡は入っていたのだ。

「ねえ」
「うん?」
「にいちゃんの彼女?」

弟が指差す先には未だにグッスリと眠っているカオあり。弟に彼女と寝ているところを発見されるとは最悪である。

「か、彼女だけど」
「病気?」
「いやそういうわけでは」
「ねぼすけしてるだけ?」

大人には色々あるんだよと言ってもわからないだろう。歳の離れた弟は不思議そうにこちらを見ている。やめてくれ、説明できない。

「母さんには言っちゃだめだぞ」
「どうして?」
「絶対に色々聞いてくるからだ」
「ふうん」

マクワは着替えて髪を整えながら弟に、絶対に絶対に絶対母さんには話さないようにと何度も口にした。



「マクワくんの弟!?」

ひゃあかわいいと目覚めてすぐにカオは弟をかわいがった。

「かわいい。やっぱりお母さん似の髪になって、ねえ」
「厄介な遺伝子ですよ」
「でもマクワくんの子どもができても、この髪型かもしれないし……それはきっとかわいいと思う」
「そ、それはつまり、その、見てみたいですね」

「どうしてにいちゃん照れてるの?」
「な……ッ! 照れてません!」

変なにいちゃんだと弟はマクワの顔を覗き込む。しつこく同じことを聞いていたら、頭をワシャワシャトとかき乱された。