バレンタイン
「あの、これ」
「バレンタイン、か」
ユーステスにチョコを渡すカオ。
「お世話になった人にはあげるって、聞いたので……」
「なんだ、このチョコは好きな人にという意味ではないのか」
「それもある、ユーステスさん、だいすき」
ふにゃり。ふにゃり。カオの嬉しそうな顔と穏やかなユーステスの顔が、なんとも言えないゆったりとした時間を作っていた。
それを陰で見ていたシス。それはもうショックである。自分はまだ貰っていないうえに、カオのだいすきは自分だけだと思っていたからだ。その後、カオはグランやシエテやカトルにもチョコを配っていた。どの様子もこっそり見ていたシスだが、他の連中がカオからチョコを貰うたびに心にグサグサと槍が刺さるようだった。肉体は何ともないというのに、何故だかぐったりしてしまったシスは部屋に戻って横になることにした。結局のところ、自分は貰っていないこともぐったりの理由だ。
「シス! どこにいたの?」
部屋に帰る途中、カオに鉢合わせ思わず目を晒せる。こちらからチョコをくれとも言えるはずもなく、どうして良いものやら。
「部屋、今帰るところ?」
「ああ」
「シス、あの、あの、あの……っ」
もじもじとカオは真っ赤になってどんどん俯いていった。なんだどうしたとシスが腕組みをする。カオは3秒ほど黙ってから後ろに隠していたチョコをシスに押し付けた。
「わ、たし……シス、すき」
「これは」
「す、すきだから今日、もらって、ほしいなって……シスのこと、だいすきだよってわかってほしくて、うけ、うけ……とって、くれ、る?」
今までにないくらいに恥ずかしそうで、真剣で。カオが今までないくらいにかわいらしく見えたシスは、トクントクンと心臓が速くなった。
「ありがとう」と握り締められて潰れそうなチョコをシスは受けとる。振るえて持ったままのかたちのカオの両手が緊張を表していた。
「おれもカオが、好きだ」
「あ、ありが、と」
「これは義理ではない、と思いたいが」
「義理……?」
「おれが1番で良いんだな」
「! うん、シスが1番すき」
へにゃり。カオが笑うと心臓が締め付けられるように反応をする。今日はもう帰るのだとカオは逃げるように去って行った。残されたシスは部屋に戻るよりもまずチョコのラッピングを開いて味をみた。甘い。またシスの心臓はキュウと反応し、腹ではなく心臓が反応する甘味にシスは不思議がった。