すいすい
「……ということで、ここは扉の鍵を気をつけてください。あと温泉はこれからぼくらと子どもたちの貸し切りの時間を作ってもらいましたから、シスさんたちは終わってからどうぞ」
カトルが説明をする間、とても大人しく聞いていたシス。カトルにあらゆる技をかけられ、関節が痛む。説明を終えるとカトルはもう一度、変なことをまたしたら追い出すと舌打ちをした。誤解とはいえ、変な気持ちが無いわけではなかったシスは何も言い返せず、カトルを見送るほかなかった。
「一緒に行こうね、シス」
「遅い時間に行くつもりだが、いいのか?」
「わたしもその方がいい。それまでシスと遊べる、んふふ」
腕を掴んで微笑むユカタヴィラのカオに、また見惚れて息を呑む。座敷に胡座をかくと、カオもとなりに正座をする。
「それで、何をする」
「あれしよ! 前にやったの、やりたい。背中に字を書いて当てるの、当てて!」
サッとカオはシスの背中に周ると、シスの服のシワを伸ばした。指を当てるとシスの耳がピクリと動く。すいっとカオの指が動くとまたピクリピクリとした。
「いもむし……」
「当たり! じゃあつぎは」
すい、すい。
「もち……?」
「うん、つぎはね、それじゃあ……」
すい、すいすい。
「……っ!」
シスはどきりとした。カオの指が『す』を書いた、その後の動きはどうも『き』だ。これはもしかすると、『シスのこと好きだから好きって書いちゃった!』というやつではないだろうか。シスはとてもどきどきと身構えた。
「……す、すきやき」
「うん、前に食べたすきやき、おいしかったね!」
すきやきだった。
シスは緊張していた肩を落とし、小さくため息をついた。
「わたしシスの背中すき」
そう言って背にくっついてくるカオにまた緊張が走る。
「よ、よせよ。仕方のないやつだな」
「怒った?」
「……いや」
「じゃあもう少しする」
背中に鼻がくっついてきた。すうはあとゆっくり、匂いを嗅がれたようでそれにトクリとする。
「カオ、お前と……その」
「うん」
「おれはお前と」
「ごはん行く?」
パチパチと瞬きをすると、シスは今言わなくても良いかと言葉を飲み込んだ。飯に行こうと立ち上がると、ひょこひょことカオも後に続いた。
「シス、またあーんしてね」
「ひ、人前ではしないぞ!」
その日仮面をつけた恐い顔の男と、フードを深々被った女が宿の廊下を歩いていたらしい。