アツアツ


バシャリ。

思わずフウと息が出た。濁った湯がとても気持ちが良い。前回と同じく、遅い時間で人は居ない。泳げるほどの広い風呂、綺麗な星空をまた1人で眺めている。今回は皆と大浴場に、ということにはいかず(エッセルも子どもたちもいる為に)人と楽しむということはできないようだ。

「一人でも、やはり温泉は良いものだな」

ポツリと呟き、肩に湯をかけながら温めた。すると、後ろから「一人じゃないよ」と声がする。

「シス、お湯熱い?」

慌てて振り返れば、前のように清掃員ではなく、カトルや子どもたちではなく、湯浴み着を着たカオがしゃがみ込みこちらを見ていた。

「な、ななん、ッ!」

驚きまた慌てふためき前を向き直す。思わず見てはいけないと判断してのことだった。裸ではなかったが、こちらは裸で、ここは温泉で、湯浴み着は緩くて。

「ば、ばか! 何故カオがここにいる!」
「どうしてって……カトルさんが説明していたでしょう、ここは入り口は違うけど、混浴で家族で入れる……って」

そうだったか、そうなのか? シスはパニックになりそうな気持ちを抑えて、落ち着けと自分の胸を押さえた。

「わたし、人と入るお風呂ってはじめて! 小さい頃も、わたしはそんな人扱い、してもらえてなかった、から……ふへへ」

湯にゆっくり足を入れながらカオはそう言って笑った。隣に並ぶと、シスはどこに目をやれば良いかわからず下を向いた。

「シスは平気……? 仮面、ない、けど……」
「構うな。おれは別に……」
「無理しなくても、わたし人に言わないよ。宿の人にないしょにするから、つけてもいいよ」
「カオには……隠さない。おれはお前に、お前と、なら、向き合おうと思う」

よかったとカオが微笑んで、恥ずかしさから思わず泳ぎ出したい気持ちがわいてくる。星は綺麗で、隣のカオも水が滴って綺麗で。

「シス、部屋で何を言いたかったの」
「め、飯を食ったじゃないか」
「他に話があったでしょ。わかるよ、シスのことずっと見てるもの」

自分も聞くのが恥ずかしくて夕食だと誤魔化したのだとカオは語った。それを今この裸で言うのかとシスは固唾を飲む。

「カオと生きていたいと思っただけだ」
「今も生きてる」
「だから、だな……これはその」

愛の告白だとはとても言えず、シスはウググと苦い顔をするばかり。カオは全てを理解できたわけではないが、嬉しいことを言われたことはわかるのか頬が少し染まった。

「わたし、シスと……」

湯の中で手を探ると、カオはシスの手を掴んだ。

「生きてもいい?」

シスはコクリと頷くことが精一杯。嬉しそうにカオは口角を上げてはにかむ。しばらく二人で黙ってお湯が流れる音を聞いていた。

すると、どうしていいかわからなくなったカオが先に口を開く。

「わたしシスの背中流したい!」
「なにを、ばかな!」
「流しっこしよ!」

ポヨン。カオに腕を引っ張られた時、腕に柔らかいものが当たった。

「おれは、……ッ先に出る!!」

逃げるようにシスは温泉を出て行った。
出てからもしばらくシスはカオと顔を合わせず隠れていたらしい。シスは熱がりだったとカオから話を聞いたカトルにはムッツリだと罵られて肩身が狭い。

温泉はやはり、これからも一人だと誓うシスなのだった。