呪文

「魔法の練習?」
「うん。戦うの無理でも、傷を治すとか……疲れ、とるとか、役に立てるかもしれない、でしょ」

カオは最近、魔法を教わっているらしい。エルーンのためか、魔法の素質はあるらしく毎日コツコツと練習をしている。そんなことをしなくとも、カオを見れば疲れなど……と口には出せないがシスは一人赤くなっていた。

「あのね」

と、カオが手を重ねてきた。シスはドキリと心臓を跳ねさせ、バクバクと動く心臓で時を数える。

「植物の成長を早めたり、小さな傷なら、これで治せるんだって。ポカポカするでしょ、目に見えない疲れもこれで、とれるよ」

じんわりと温かい。太陽の光のようにカオの手からエネルギーが出ているためだ。しかし重なった手が恥ずかしいために温かくなっている気がしないでもない。任務の帰りであり、使われ続けた手が癒されていく。

「シス、はい」
「? こうか?」

両腕を広げたカオに呼ばれて、吸い込まれるように腕の中へと入る。

「これはどういった魔法だ」
「魔法じゃないよ。これはただのハグ」
「そ、そうか」

ただ抱き締められているだけとわかるとホワッと顔が熱くなる。

「シスが安心して帰って来られるようにする」
「うん」
「でも、あんまり無茶はしないでね」
「わかっている」

抱き締め返しながら、カオの頭をなでる。意図せずカオの髪を嗅ぐと、そのまま髪に指を通す。ウズウズとつい足を動かしてしまうと、カオが「フ」と声をもらした。

「ええっと、おしり、触る?」
「な、な、な!」
「シエテさんがシスはお尻好きだって言ってた」

魔法の呪文だよと教えられたそれは、シスの怒りを呼び出した。シエテは今どこまで逃げられているのか、人探しの魔法を使わないとわからないだろう。