フール

何の騒ぎだと様子を見に来たシスは、とても、とてもとてもショックを受けた。

「シエテさん好き!」と言いながらシエテに抱きついているカオを見たからだ。惚れ薬は効果を発揮し、見事にカオはシエテに惚れてしまうことになった。

持ち出したフュンフはもちろん、コソコソとしていたカトルも指導を受けることになったがそれどころでは無い。シエテにべったりと張り付くカオにカトルは青筋立ち、フュンフもずるいとまたブーブーと言った。


「シスくんごめんね」
「何がだ」
「カオちゃん、これは本心じゃないから! だからほら、効果が切れるまで怒らないで、ごめんね」
「フン……俺には関係ない」

シスはツンとするが、カオがシエテの手を繋ぐとウグッと声が出てしまう。

「俺はカオちゃんのこと妹とか娘とかそういう目でしか見てないから、本当だよ!」

シエテの弁解に、またシスは気にするなと気にしていないように振る舞う。……が、耳はピクピクと落ち着かないように動いている。

「わたしは、シエテさん好き」

カオはシエテの腕に絡むとそう言った。とろんとした表情に、シエテはほんの少し普段とは違う『かわいい』を感じてしまう。

「カオちゃん」
「うん、なあに」
「シスくんの視線が痛いから、離れてようか」
「嫌! わたしはシエテさんの側にいたいの、一緒にいたい。だって、大好きだから」

シスはブスブスと剣で刺されているような気分になった。世界の終わりのようだった。この時ばかりは、生きようと思うことをやめたいとまで思った。シスはフラリとよろけると、膝をつかないように本棚に手をついて体をなんとか支えたのだった。

「シスくんが倒れそうだから、場所変えようか……」

シエテがいそいそと扉を開けると、甲板から廊下へと突風がブワリ。ひゃっと声を出して、カオの帽子は外されてしまった。

「カオ!」

咄嗟に動き、帽子を拾い上げるとシスは帽子についたホコリを払う。

「ありがとう」

帽子を受けとると、カオはへらりと笑って見せた。シスはシエテに気をつけろと一睨み。

「シエテさん見た……?」
「ううん。見ていないよ」
「よかった。見られたくないの、これは」

深く帽子を被るカオ。シエテはフフとにやけて、シスに「俺じゃ薬でも駄目みたい」と耳打ちした。何のことだとシスはムッとするが、シエテは笑って返事をするばかりだ。