のそのそ
「ぺ、ページワン様」
すすす、とお茶を出すカオ。
「オゥ」
お茶を受け取るとホワッと笑う。こんな場所に似合わず、和やかな雰囲気がくすぐったい。姉も珍しく留守にしているし、静かこの上ない。釣りにでも行くかと腰を上げたが、頭を下げたままのカオが気にかかる。
「今日は外に出るか」
「それでは御支度を。お帰りはいつ頃に?」
「おまえも行くんだよ」
「えっ」
驚き顔を上げ、また慌てて頭を下ろすカオにひとつため息。
「ですがページワン様、だ、だん、男女が2人で、公然と……なんて、憚られます」
「う、うるせえな! 行くって言ったら行くんだよ!」
無理矢理にカオの手首を掴んで、ページワンはドシドシと廊下を速足で歩いた。途中、ササキに「ぺーたん、デートに姉貴は行かねえのか」と揶揄われたもので、ますます足は速くなった。
どこに向かうかも決めていなかったし、ページワンはカオが何を好きかも知らない上に、こういう時にどういう所に行けば良いのかもわからなかった。兎にも角にもどこかへ行かねば、そればかりが先走る。
「ページワン様、わたし、疲れて……」
あまりにも夢中であったが為に、息が上がっているカオにも気が付かず。急いでいた足を止めて、こんな時に姉はどうしろと言っていたっけ。
「おぶってやろうか?」
「お、お……」
カオは想像した。自分がおぶわれている姿を。
『ページワン様ちからもち! 流石にでございます!』
『カオは羽のように軽いサ!』
キャッキャウフフする様を妄想して、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
「破廉恥にございます……!」
「な! おれはそんなつもりじゃ!」
いやらしいことを考えてしまったと、カオは顔を覆ってうずくまる。大丈夫かと覗き込むページワンに、カオはまた恥ずかしくなった。
ゆっくり足を進めて、たどり着いたのは隠れた岩場である。ここはいつも、姉から離れて1人になりたい時に訪れる釣り場だ。結局、茶屋とか桜を見るとかベタな場所へとは行かずにこんな所へ来てしまい、心の中で姉が「つまらないでありんす」と叫ぶ。
「ここ、たまに釣りに来てんだよ」
説明をするや否や、カオはせっせと岩場のクズを払い、ハンカチを敷くとこちらにどうぞと準備をしていた。ため息をひとつつき、ページワンはマントを脱ぎ岩場に広げた。
「ここ、来い」
「ですが、ページワン様のお洋服が……」
「いいから、隣座れって!」
恐る恐る、カオはページワンの隣に座った。
「ページワン様、」
「なんだよ」
「釣り道具、忘れてしまいましたね」
「別に釣りに来たわけじゃねえよ」
「し、失礼を……」
「おまえと2人になりに来たんだろ」
どくどくとカオは脈打って赤くなった。
「ページワン様、」
「なんだよ」
「破廉恥にございます…!」
パキパキ!と辺りを凍りつかせて、今日の日が暮れた。