糸切り
「あーげにまっことチマチマチマチマチマチマしちゅう!」
針仕事に青筋をたてて、以蔵は手を止めた。
「以蔵さんにはつまらない仕事でしたね」
仕事を放り投げたというのに、カオはくすくすと笑って自分の手を進める。
「針っちゅうもんは、女の仕事やったがやき。わしは人斬りしかわからん」
「ここでは、糸切り、布切り、ですよ」
はい、と以蔵がカオから渡された布にはペンで線が書かれていた。裁断を任され、渋々と以蔵は布を裁いていく。
「ようわからん、ここはどうなっちゅう」
「ここは少し切り込みを、」
細部を教える為に近寄って来たカオからは、フワリと良い香りがした。ついその匂いからカオに引き込まれて、女への意識が高まる。生涯を独身で終えた以蔵には、ほのかに妻を迎えることに憧れがあった。ひとつ屋根の下、女と暮らすことになった以蔵は、少し、少しだけ『えいこと』があるのではないかと期待をしている。
「以蔵さん、針を押す時は指抜きを使いましょう。ほら手に痕が……」
「ウッ」
ふいに手を触られ、つい以蔵はビクリと肩を跳ねさせてしまった。
簡単に手を触るカオ、実はカオ……まーったくという程、男に興味がなかったのだ!家にやってくるリスや猫、ネズミたちが居れば幸せだと話し、おとぎ話のような暮らしを望んでいる。
主人を女として意識している以蔵と、使い魔を大きな動物が増えたくらいにしか認識していないカオとの生活がごとごととスタートしていくのであった。