野望
「魔力を込めるだけで良いというわけではありません。良いですか、編み方も大切なのです。術式に、言わば魔法陣のような、言葉ではない呪文のようなものなのです」
手編みをしながらカオは語った。以蔵は唸りながら糸を巻く。また何を作っているのか気にはしたが、前に呪いの類も作ることがあると聞いたことがある為にあえて聞きはしなかった。
「できました。以蔵さん、髪留めですよ」
以蔵はビクリと立ち上がり、何の呪いかと問うた。
「失礼ですね、これはちゃんと以蔵さんの安全や幸せを願って編んだものです」
「そ、そうか」
大人しく髪留めを受け取ると、直ぐに付けはせずに懐に仕舞い込んだ。直ぐに身につけることもできたのだが、気恥ずかしく思ったのだ。
「この世界では聖杯戦争は終わっています。それは最後にかけられた聖杯への願いが、サーヴァントと一緒に暮らせる世界だったそうで……」
「聖杯が無いというのに、何故サーヴァントを呼び続けるがじゃ」
「それは……そういえば、何故でしょう。昔からそうでしたし、不思議に思う事自体が無くなっていたのかもしれませんね」
また次の糸玉に手をかけ、カオは首を捻っていた。
「何故そんな願いにしたがじゃろう」
「おとぎ話のようですが、魔術師がサーヴァントに恋をしたからだと聞いたことがあります」
「なに!?」
「あ、もちろん逆に一生の奴隷にしたかったなんて説の本もありますよ。本当のところは、誰も知らないので……」
なんちゅう世界じゃ、と以蔵は顔を手で押さえた。
「少なくありませんよ。この世界でサーヴァントと結婚する方は」
「異常じゃ」
「そうかもしれません。事実、サーヴァントとでは子孫が残せませんから。代々受け継がれた魔術の類いが廃れつつあります」
ゆっくりと壊れる世界だと言う。こうしてわかっているのに、サーヴァントの召喚を辞めない人類。召喚に応じるサーヴァント。聖杯が無いのに召喚に応じるサーヴァントは、どんな願いがあるものなのか。もしかすると、ただの変わり者にすぎないのかもしれない。
「以蔵さんは、叶えたい願いがありますか」
「博打で勝つ、うまい飯、酒を飲む、いくらでも願いはあるき。聞くのは野暮というもんじゃ」
人斬りとしてもう生きたくはないが、それしか自分に才が無い。この世界でどう生きて行くべきなのか知りたいという願いは口にしなかった。答えられることが怖く、漠然とした不安があったからだ。
まだこの世界に馴染めそうには無い。