プシュー
「この子にスープを頼む」
店でいつも通りの注文をする。ふと、この生命体は食事をするのだろうかと疑問に思う。
「お前たちは飯を食えるのか?」
「食べたことはない。生命体になることの方が珍しい」
ものは試しにとスープを追加注文すると、生命体は恐る恐るスープをひとなめ。
「これが食べるということ!」
「うまいのか?」
「初めて食を知った!これ、好き!」
えへへと笑う生命体を見て、またドキュンと何か撃ち抜かれる音がした。幻聴だろうか。
「好き!だーいすき!」
ドキュンドキュン。おれは思わず固唾を呑み込む。
「ディンは食べないの?人なのに?」
「人前では顔を出さない」
「おいしいのに。少しだけでも、ほら」
はい!とスプーンで差し出されたスープ。食べさせてあげると好意を向けられ、普段なら顔を出さないという理由で遠慮させて貰うところだが、今はどちらかと言えば食べさせて貰うことに恥ずかしさがあり、「いいんだ、すまない」と断った。
「お前には感情があるんだな」
「今は人だから、備わっている」
「グローグーのママになると言うのなら、グローグーのことを好きでいなければならない」
生命体はスープを飲み干し、こちらを見た。
「好きって、おいしいとスープのことか?」
「グローグーをスープと一緒にするな。好きというのはいくつか種類があり、飯の好みとは違う」
「ディンを好きだということと、同じ好きか?」
おれはまるで死と隣り合わせの窮地に陥った時のように心臓がバクバクとした。同じ……なのだろうか?それよりもさらっと好きと言われ、動揺している自分が居る。
「その違いは、本人にしかわからないことだ。これは誰に教わるものでもない」
「いつかわかる?」
「ああ」
「グローグーは好き。でもスープも好き。ディンのことはもっと好き」
フルフェイスの仮面の下で、おれはこの赤面を見られなくて良かったと思う。