※本文に直接の描写はないですが普段は男主攻め
「お前にだったら抱かれてもいい」。数日前、クリフとヤっている時に確かに俺はそう言った。が、まさか本当にこいつに有言実行されることになるとは。しかもこんなに早く。
「ナマエ」
「ん、何」
「お前を抱きたい」
「んー、ん、………うん?」
ぼんやりソファーで寛いでたらビール片手にやってきたクリフが俺の隣に座り、何を言うかと思ったらまさかのまさかである。
確かに、確かにいつも俺に抱かれてくれている俺よりもよっぽど男らしいクリフに少し申し訳なく思って、「お前は本当に下でいいのか?」と聞いた。そしたら逆に「お前は下がいいのか?」なんて聞かれ、その後壮絶に色気のある笑みと共に壮絶な殺し文句を言われてしまい、思わず「お前にだったら(以下略)」と答えたのは冒頭で説明した通りである。
とはいえ、こんなに早く言われると想像もしていなかった俺は、何言ってんの、お前マジか?とフリーズしてしまったわけだ。その間にあれよあれよと言う間に流され、気付いたら寝室のベッドで押し倒されていた。まあ普段も同じようあれやこれやという感じなのだが、今回の立場は逆だ。クリフが突っ込む方で、俺は突っ込まれる方。流石に心の準備が欲しい。直談判すれば、30秒だけ待ってやると言われた。いや短すぎるだろ!
とまあ、そんな突っ込みを入れたところでクリフに抱かれることは決定事項だ、30秒経ったところで諦めて奴に身を任せることにした。
普段俺がクリフにしているようにされるのか、と身構えていれば、額に少しかさついた感触が落ちてきた。くすぐったさに目を細めると楽しそうな、控えめな低い声がころころと鼓膜を揺する。
「痛かったらちゃんと言えよ」
「お、おお……っん、む」
返事も早々に口を塞がれ自然と意識が唇に向けられる。手馴れてるなあ、やら上手いなあ、やら考えられたのも数秒で、蹂躙するように口内を舐るクリフの舌に追いつこうと躍起になっている間にじんわりとした鈍い痺れが腰を包んでいた。朧な視界で下を見ればクリフの人差し指から薬指までが見えなくなっている。いつの間に。
「苦しいか?」
「ぁ、い……るし、く、ない……ッ」
「もう少し拡げるぞ」
圧迫感は勿論ある。文字通り内蔵を抉る感覚に身をよじればその度にクリフからキスを贈られ、「もうすこし」と宥められた。
しばらくねちっこく中を掻き回された後、指を引き抜かれる感覚に震えると同時にクリフが穏やかに微笑んだ。海色の瞳が蕩ける熱を閉じ込めている。
「いま埋めてやるからな」
入っている、俺の腹の中に、クリフのソレが。
ひどい圧迫感、内蔵を押し上げられるような感覚。汚い話、普段は出すところに奴のペニスが挿れられているのだ、違和感はものすごくあるが、散々中を解されたお陰で痛みはなかった。
まさか、こいつのちんこが、俺のケツに?信じられない。これは現実か?
「う、うそお………」
思わず吐き出された言葉にクリフはふ、と息を漏らす。嘘じゃない、柔らかい声と共に肌に落とされた唇はやけに熱く感じた。
「っくりふ、そんな、っ触り方すんな、こそばゆい、」
「いつもお前が俺にしてるように触ってる」
「う、うそだ……っ」
「嘘じゃない」
もう一度同じ言葉が呟かれ、腹筋をなぞるように掌が動く。腹から胸へ、辿り着いた熱は俺の身体をますます火照らせていく。絶対にうそだ、そんな、腹の奥がじわじわ熱くなるような触り方なんてしていない。
俺の中にクリフのソレが収まっても、クリフはすぐに動こうとはしなかった。戯れのようにキスを繰り返したり、俺の身体をなぞるように触れたりする。普段されないような丁寧なそれが最早焦ったい。身体を捻ってもういいからと言った俺の声は、なんだか懇願のように聞こえた。
動くぞ、クリフの声がやけに篭って聞こえる。さっきの愛撫といい、今まで大体の行為では俺が何か言う前に俺に跨って自分勝手に動き出すことが多かったクリフだ、今回俺が抱かれる側だからか多少気遣いの心は持ち合わせているらしい。そんなことを頭でぼんやり考えながらん、と短い了承を返す。
それを聞いてこめかみにひとつキスを落としたクリフは、ゆるゆる、そんな擬音がぴったりなほど、緩慢な動きで腰を動かし始めた。
「ン、っん"、んぅ、ッ」
腹の中を、ぎちぎちに埋め込まれたクリフのペニスが抜き差しされる。入っていく感覚も、抜かれる感覚にもぞわぞわとする。くるしい、なのに、腹の中は熱い。ああ、訳が分からない、頭が爆発しそうだ。
「う、うぅ"、〜〜ッ、ひ、」
「ナマエ、落ち着け、」
「、っくり、ふ、っあ"、」
「痛いならやめるか?」
行き過ぎた感覚に思わず強く目を瞑ると、涙が瞼の外に滲み出すのが分かった。俺の名前を呼んで、案じるかのように頬に当てられた大きな手のひらがいやに優しい。くそ、クリフのくせに。俺はいつもこいつに突っ込んでいるくせに、俺の方が突っ込まれてギブアップ、なんてしてたまるか、そんなのかっこ悪いじゃないか。
「痛くない、し、やめない、っほら、もっかい、さっさとうごけよ、」
若干潤んだ視界の先、クリフの真っ青な瞳を見据えて声を押し出した。それに奴は口端を片方上げて笑う。ああくそ、その笑い方がいちばんいやだ。そんな、こっちが恥ずかしくなるような甘やかな笑みを向けるのをやめろ。そんなことを口に出す余裕なんてなく、でもクリフはしっかりと察したらしい(俺は色々と奴に見透かされている)。強がるなよなんて呟いて、存外優しい手つきで俺の汗でじっとりと濡れた額を拭えば、ぺったりと張り付いた前髪を取って自分の指に巻き付け、くるくると弄んだ。
「っぐ、ぅ、」
かと思えば、クリフが前のめりになって、俺との距離を近づける。些細な身体の動きにでさえ腹の中は敏感に反応して、内側から押し出された濁った声が漏れ出た。
「ほら、少し動くだけでこれだ」
「う、」
「俺が本当に動いたら、お前はどうなると思う?」
「そんなの、どうにもならな、っ、ン、ぁ」
本当に動いたらってどういうことだよ、なんて突っ込む暇もなく、初めての挿入ですっかり萎えた自身にクリフは手を伸ばす。まるで弄ぶかのように扱きはじめる奴にやめろ、と弱々しい抗議をするが、俺をイジるのが大好きなクリフのことだ、やめてくれるはずもない。
「かわいそうに、すっかり縮こまっちまって…。俺が可愛がってやるよ」
「ほんと、お前うるさい……」
ガキみたいな憎まれ口しか出てこない。にやにやしやがってちくしょう……。ていうか、
「なんでお前はいつも完勃ちなんだよ」
男同士のセックスなんぞクリフとしかしたことないから具合が分からなかったが、挿れられてみて分かった、この感覚を気持ち良いと感じるのは中々に難しい。にも関わらず、思えば割と最初の方からだったと思うが、クリフは俺に突っ込まれても勃っている。この前なんか後ろだけで触れずにイってたし(それには流石に本人も驚いた様子だったが)。素質とかあったりするのだろうか。
「そりゃ、お前のコレが気持ちいいからさ。死ぬ程な」
「………」
が、素質とかそんなものは全く以て関係なかったらしい。平然とした顔で、けろりと言ってのけたクリフに一瞬固まる。直後、言葉を理解する前にぶわりと音が出そうな程顔が熱くなって。
「あ、締まった」
「やめろ!ほんと、っお前マジでそういうこと言うなよな!いま!それ、言う?!」
「聞いたのはお前だろ」
「いやまあそうだけどさあ!あーーもう……」
思わぬブーメランを食らってしまった。耐えきれず手で顔を覆う俺の耳にはクリフのくつくつと笑う声が届く。もう駄目だ、俺はこいつには敵わない。敵う日など来ないのだ。
「もう、いい、早く抱いてくれ……」
「仰せのままに。安心しろよ、すぐに良くしてやる」
「どっから出てくるんだよその漲る自信は………」
「お前はキスだけで腰砕けになる奴だからな」
俺が突っ込んだらそれはもう天国だろ、俺の方がお前のよりデカいし、とクリフは要らん情報まで付け加えて続ける。マジで要らない情報だ、事実なのがまたむかつく。
「そんなに睨むなよ、事実だろ」
「知ってるよ…不服ながらな」
「不服ながら?もっと欲しいってエロい顔するクセに」
「な、そんな顔してな、っン、!」
反論する間も無く唇を重ねられ、上唇をちゅう、と吸われる。半ば開きっぱなしになった口に分厚い舌を差し込まれれば、俺よりも何枚も上手なキスに何も考えられなくなる。唇を離される頃には、力が入らず、口を閉じるだけの力さえも奪われるのだ。そして俺の顔を見て、クリフはほらな、蕩け顔してる、と笑った。自分のこと棚に上げやがって。自分だってエロい顔してるくせに。
「──ああそうだ、」
「今度はなんだよ……」
「俺の言う通り、ここまで届いたろ?」
「……うるせ、ばか……」
殺し文句をもう一度呟いて、俺の腹を指で遊ぶようになぞるクリフに、俺はといえばじとりと視線を遣ることしかできないのだった。
20200214