「ふう」
「ナマエ、大丈夫?」
「スティーブ」
ようやくソーから解放されて一息つく。あそこでスティーブに助けられなかったらきっと俺押し潰されてたかもしれない。ソーはというと「酒と料理を持ってくる」と上機嫌で席を立って行った。
「大丈夫、ありがとう助けてくれて」
「あの神様は加減を知らないからね、ナマエが押し潰されるかもしれないと思って」
「ははは」
…それはあながち間違ってない。思わず乾いた笑いが漏れた。
「座ってもいいかな?」とスティーブが言うので「もちろん」と返した。最近英会話がちょっと上達してきたような気がする。相変わらずスピーキング能力はカスだけど。
スティーブが俺の隣に座る。そういえば、スティーブの私服姿は初めて見た。新鮮だ、それに私服着てても筋肉がすごい付いてるのが分かる。すごいなあと思いつつ見てたらスティーブに「どうした?」と聞かれた。筋肉見てましたなんてなんとなく恥ずかしくて言えないので「なんでもない」って言っておいた。少しどもってしまったけど。
「ナマエ、楽しんでる?」
「うん、楽しんでる、と思う」
俺の答えで察したのか、スティーブは笑った。
「…雰囲気に慣れない?」
「……ちょっとね」
こんな高級なパーティに参加するのは初めてだし、何よりも海外のパーティに参加すること自体一度もなかったから、端っこの方で目立たないようにちびちびとお酒を飲んでいたのだ。まあソーに見つかった時点で見事にそれは失敗に終わったけど。
「ええと、スティーブは?楽しんでる?」
「うん、楽しんでるよ」
久しぶりだからね、こんな大きなパーティは、とスティーブは笑った。その笑顔に少し影があるように見えるのは気のせいだろうか。
「…スティーブ、」
「ん?」
「ありがとう」
「え、急にどうしたの?」
「いや、」
思えば、ロキに吹っ飛ばされたところを助けてくれたのはスティーブだし、最初に俺に気を遣って(多分)話しかけてくれたのもスティーブだし、その後も色々と俺を助けてくれたのはスティーブだ。だから、
「スティーブは俺を助けてくれた。何度も、何度も。だから、ありがとうって言いたくて、それから」
スティーブは、俺の拙い英語を黙って聞いてくれる。
「…それから、えーと、」
…だめだ、英語でどう言ったらいいのか分からない。あああああもどかしい!!!!
「………ごめん、英語の言葉が出てこない」
「ナマエ、」
「大丈夫、ゆっくりでいいから、」と優しく言われた。申し訳ない!ああもう、本当にもどかしい、会話に関しては拉致られてから俺もどかしい思いしかしてないぞ!とりあえず落ち着いて言葉を見つけないと、
「……よし」
「まとまった?」
それに頷いて、俺はゆっくりと口を開いた。
「………ええと、俺は、スティーブを助けたいんだ。貴方はとても強いから、必要ないかもしれないけど、でも、もしスティーブがなにか、困ってたり、っわ、」
急に抱きしめられて言葉が遮られる。ソーとは違って優しい。え、というか、俺、なんで抱きしめられてるんだ、
「…ありがとう、ナマエ」
「お、おう」
とりあえず頷いておいた。抱きしめられて動揺して日本語で「おう」って言ってしまった。スティーブが小声で何か言ったけれど、聞きとれなかった。
「俺、スティーブが好きだし、助けたいんだ。だから、もし何かあったら、…言ってほしい」
「俺に助けられるか分からないけど、」抱きしめられながら俺はそう続けた。もちろんこの「好き」はlikeだ、loveじゃない。英語の方が日本語で言うよりも楽だな、「好き」と言うことに関しては。
「…………」
「スティーブ?」
スティーブからの返事が返ってこない。そして俺を抱きしめたまま固まってる。待て待てなんでスティーブは固まってるんだ、もしかして俺変なこと言ったか?!I like youって言ったのまずかった?!すごい心配だから何とか言ってくれスティーブ!
「はあ………………ナマエ、」
「え、なに、なに?!」
返事がなくてそわそわしてたら(心の中で)ため息つかれた!なんで!
抱きしめられていた体が一旦離されて、スティーブは俺を見る。数秒目が合って、スティーブは何故か眉間に皺を寄せて、それから俺の肩に顔を埋めた。少しくすぐったい。なんとなく、宙ぶらりんだった俺の両腕をスティーブの背中にゆっくりと回すと、俺を抱きしめる力が強くなった。
20150708