目の前を歩く見知った後ろ姿を見つけたので声をかけた。
「あ、クリント、…こんにちは」
こちらを振り返ったナマエは、俺を見て薄く笑ってから律儀にぺこりとお辞儀をする。それが何となく可愛かったのでわしゃわしゃと頭を撫でてやったら驚かれた。いつもソーや俺にやられているくせに慣れないらしい。ナマエが何やら日本語で文句を言ってるが、分からないので「英語で話せ」と言っておいた。
「よお。調子はどうだ?」
「あ、うん、元気だよ。クリントは?」
「まあ普通だな」
「日常会話も中々上達したな」、と付け加えれば「そうかな、ありがとう」と返ってきた。最初に会ったときよりも確実に喋れるようになっているから、こいつも頑張ったんだな、と思う。
初め会ったときはナマエのたどたどしすぎる英語にイライラしたものの、今は懸命に話そうとしているナマエがかわいいとさえ思うのだ、我ながら重症だ。
「何してたんだ?」
「スティーブに英語を教わってた」
「あいつに?あいつに教わったんじゃ古臭い言い回しばっかり覚えるだろ、というか、お前とスティーブって仲良いよな」
「…そう?」
「少なくとも俺にはそう見えるぞ」
「………」
ナマエは首を傾げていたのであまり自覚はないみたいだが、恐らくスティーブは違うだろうな。
「…あー…そうだ、お前明日暇か?」
「え?うん、」
「じゃあ、何か食いに行かないか」
「……食べに?」
「ああ」
突然の俺の誘いが意外だったのか、ナマエは目をぱちくりとさせた。
「…ほんとに?」
「ああ、明日丸一日暇なんだよ」
俺がそう返すと、しばらくナマエは迷うように目をきょろきょろとさせた。それから小さく「…俺でいいの?」と小さい声が。
「……はあ」
思わずため息が出る。久しぶりにこいつにイラッとした。俺に言えたことじゃないが、なんでこうこいつは鈍臭いんだ。お前が思ってる以上に仲間はお前を好いてるし、気に入ってるのに。
「馬鹿」
「いてっ」
ムカついたので頭にチョップしてやったらナマエは痛そうに頭を抱えた。それが少し面白かったので思わず笑いが漏れる。ナマエに「お前なに笑ってんだ」みたいな顔でじとっと睨まれたが全然怖くない。
「くどいぞナマエ。俺はお前と行きたいんだ。………嫌なら嫌って言えよ」
「えっ」
そう言えば、さっきまで俺を睨んでいたナマエの表情が慌てふためいたものに変わって、「違うよ!」と即座に返ってきた。表情がころころ変わる奴だな。
「違うよ、嫌じゃない!」
「へえ、ほんとかよ?」
「ほんとだって!ありがとうクリント、」
「嬉しい、一緒に行きたい」と俺から目を逸らしながらぼそりとそう言うナマエに俺は口角を上げた。
「よし、じゃあ明日はとことん付き合えよ、せっかくだし英語も教えてやる」
「え、いいの?ありがと!明日なに食うの?」
「あーそれは考えてなかった、なに食いたい?」
「…ドーナツ」
「………(やっぱりこいつかわいいな)」
20150712