「何見てるんだい?」

穏やかな声が頭上から聞こえてそれに顔を向ける。視線を上げた先、柔和な表情を浮かべた友人──、スティーブ・ロジャースの名前を呼べば、彼はやあと挨拶をしてから俺の隣に腰を下ろした。

「ええと、映画の予告編見てるんだ、何か面白そうな映画があったら観に行こうかなって」

俺の詰まりながらの返答に相槌を打って、スティーブは「君は映画が好きなんだね」と笑う。それにうん、と頷いた。

アベンジャーズのNYでの戦いから早数ヶ月。色々あり日本には帰らずアメリカに残ることにした俺は、こっちで学校に通いながら時折アベンジャーズタワーでバイトをする日々を送っている。今はそんなバイトの休憩時間、カフェテリアで座りながら最新映画の予告編を動画サイトでサーフィンしていたのだ。スティーブは今度の任務に関するブリーフィングで来ていたようで、終わった後に俺を見かけて声をかけてくれたようだった。だからいつものキャプテン・アメリカのスーツではなく、ポロシャツにジーンズというラフな格好だ。

「こっちに来てからよく観るようになったんだ。英語の勉強も兼ねてさ」

言いながらスマホの画面をスティーブに見せれば、彼はふうん、と画面を覗き込む。スティーブとの会話で流しっぱなしになっていたスパイ映画の予告編は終わりに近づき、怒涛の勢いで目まぐるしくアクションシーンが流れていく。

「勉強熱心なのはいいけど、それでちゃんと楽しめてるのかい?」
「楽しめてるよ!お陰で内容も大分分かるようになったしさ」
「そうか、映画のお陰だね」
「うん、まあ家で一人で観るか、映画館も一人で観に行くことが多いから、その、ちょっと寂しい時はあるけど」
「………」

自虐のつもりでから笑いをすれば、スティーブは瞬きをして黙ってしまった。その沈黙に何かまずいことを言っただろうかと少しばかり不安になる。この前ナターシャに「少しは自信を持って。素直でいなさい」なんて言われたばかりなのだが。それでも心配になってしまう。性分なのだ、これを直すのはしばらくかかるだろうな。
いつのまにか小さな画面で流れていた予告編は終わっていて、周りの喧騒だけが俺たちを包んでいた。やはり自虐ネタはまずかっただろうかと俺が変な不安に駆られる傍、何か考える仕草をしていたスティーブが何か思いついたのか、やがて不意に口を開いて。

「…スター・ウォーズ」
「え?」
「あ、…いや、観たことあるかなって思ってさ」
「古いシリーズだけ観たことあるけど…どうしたの?」

俺が想像していたのとは全く違う単語を繰り出したスティーブに拍子抜けをする。しかも観たことあるかなんて。なぜ、と理由を聞けば彼はああと、と珍しく言葉を濁らせる。

「その、色んな人にチェックしておいた方がいいものを聞いて回ってるんだ。人とか、音楽とか、映画とか…何しろ70年近く眠ってたから、時代に追いつくのが大変でね」

はは、とスティーブは取り繕ろうように笑う。それを聞いてようやく納得がいった。

「あ、そっか、だから」

スター・ウォーズを観たことがないんだね、そう言おうとしたが頭が回らず咄嗟の言葉が出てこない。そんな俺の「だから」に続けるようにスティーブは続きを付け足した。

「そう、そうなんだ。僕スター・ウォーズはまだ観てなくて。」
「うん、」

そうなのか。スティーブの言葉になるほどな、と頷く。そりゃそうか、70年も眠っていれば現代に追い付くのに大変だろう。そして少しの間を置いて気づく。つまりどういうことだ?ぱっとスティーブを見遣れば、彼は少し気恥ずかしそうにぽり、と頬を掻いて。

「…その、君が良ければ、一緒にどうかなって、思って」
「………」

俺にとってその言葉は全く予想外のものだった。スティーブにとっての仕事というか、アベンジャーズ関係のことで彼と話すことはたくさんあったけれど、プライベートでスティーブと、というのは今までなかったから。映画を一緒に観るなんて完全にプライベートの領域だ。
いいのだろうか。誘ってくれたこと自体が嬉しくて、でも本当に俺でいいのか、じわじわと不安もやってきて。
ああ、なんだか胸のあたりがむずむずする。

「……いいの?」
「?ああ、勿論だよ」

呟かれた俺の自信のなさげな言葉に対して、スティーブはどうして君が気にするの?とでも言うような表情だった。
ナターシャの言葉が脳裏をよぎる。
俺の直さなければいけないところは、きっとこういうところなのだろう。

「……じゃあ、スティーブが良ければ、一緒に観たいな」
「……良かった、」

頬を緩めてありがとうと言うスティーブに、お礼の言葉を言いたいのは俺の方だと、俺も同じ言葉をスティーブに伝えたのだった。

それから。その後一緒にスターウォーズを観て(しかも全部)、誰かと一緒に観る映画はこんなにも楽しいのかと、久しぶりに感動を覚えることになり、スティーブとの映画鑑賞が習慣になるのも、そう遠くない未来の話である。






20190709

スティーブとメモ



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