夢の続きifでDCの場合。
ブルースかクラークかどちらを贔屓するかによってナマエの居候する家が変わります笑
ブルースの場合。
話せば長くなるのでそこは省略するが、色々あってゴッサム・シティの、しかもあの(強調)ブルース・ウェインの家に居候することになった。その時の俺は英語能力ゼロだったし、むしろマイナスからのスタートで、言葉も通じないこんな俺を住まわせてくれるなんてウェインさんには感謝してもしきれないしむしろ申し訳なさすぎて縮こまっていた。緊張やらなんやらでガチガチになっていた俺をウェインさんは問答無用で高級車に乗せ、ウェインさんが直々に運転する中彼のお家に着いて出た一言がこれだった。
「豪邸かよ………………」
お家とかそういうかわいいレベルのものじゃなかった。マジで豪邸だった。だって豪邸なんだもんな。しょうがないよな。
まあ、こんな感じで無駄に広いウェイン家の豪邸で暮らし始めることになったわけだが。
「おはよう、ナマエ」
「あ、おはようございます…」
「ここの暮らしには慣れたか?」
「え、あ、…はい、たぶん、…ありがとうございます」
「……そうか、何かあればアルフレッドに言ってくれ」
居候をし始めてからしばらくの間、ウェインさんとの会話はこんな感じだった。ウェインさんとはほとんど会話をすることがない。会っても一言二言交わすだけだ。同じ家に住んでるのに面白いよな。そもそも彼が忙しくてお互いの生活時間が合わずに顔を合わせることがほとんどないというのもあるが、俺の英語コミュニケーション能力が低すぎて会話がままならないというのもある。しかも悪いことに俺はコミュ障なのでせっかくウェインさんと顔を合わせても、英語能力が緊張でマイナスに振り切れてしまうのだ。最悪である。
「あれ?待ってどこだここ」
そして広すぎてよく迷子になった。自分のあてがわれた部屋に行くのにも最初は一苦労だった。なので道を覚えるまでは迷う度に執事のアルフレッドさんに助けてもらっていた。申し訳なさすぎる。けどこの豪邸、どこも同じような造りだからどこにいるのか分からなくなるしていうかなんでこんなに寝室やらバスルームやらがあるんだ?そんなにいらなくないか?掃除の手間が増えるだけだろうに。金持ちの考えることは分からん、と迷子になる度に心の中で思っていた俺は悪くないと思う。だって庶民なんだから仕方ないだろ。
とまあ、ウェインさんの豪邸にまだ慣れない頃は
こんな感じで戸惑っていたのだけれど、それも次第に慣れてきて、自分の部屋から大きなリビングまでの道を覚える頃には1つ自分の中では大きな進展があった。
「アルフレッドの紅茶は本当に美味しい、いつもありがとう」
「嬉しいお言葉ありがとうございます。…ナマエ様は、ここでの生活は慣れましたか?」
「ぁ…うん。慣れてきたと思う」
「そうですか、それは良かった。もうご自分のお部屋まで迷うことはなさそうですね」
「笑いながら言わなくても…でも、なんか、時々寂しくなるんだよなあ」
「……ブルース様に、そうお伝えしておきますね」
「えっ!やめて?!」
ウェインさんの執事のアルフレッドと仲良くなったことだ。毎日3時のおやつ(アフタヌーンティーとでもいうのだろうか)をいただくのだけど、その時にアルフレッドが一緒に淹れてくれる紅茶がなんとも絶品なのだ。毎日こんなに美味しいお菓子と紅茶を食べてたら絶対に肥えると思いながらも毎日頬を綻ばせていただいている。おやつを食べながらアルフレッドと会話をするのは英語の勉強にもなるしな。
そんな毎日を重ねるにつれてここでの暮らしに慣れてきて、1日のルーティーンが決まってきた。朝7時に起きて朝食を食べて部屋に戻る。昼になったら昼食を食べておやつまで英語の本を読んで、おやつが終わったら晩ご飯までまた本を読む。晩ご飯を食べ終わったら少し休憩して、風呂に入って歯磨きをして、11時くらいに寝る。なんと健康的な生活だろう。今までの深夜に寝て昼過ぎに起きる自堕落な生活とは大違いである。けれど、やっぱりなんというか、ここでやることがなさすぎる。アメリカに来てから友達になったバリーがたまに遊びに誘ってくれるのでその時は街に出るが、それを差し引いてもやることがない。やることがなさすぎるのと、なんでもやってもらうのが申し訳なくて以前アルフレッドの手伝いをすると言ったことがあるのだが、「お客様にそのようなことはさせられません」と言われて断られてしまった。だから毎日本を読むかケータイをいじるかどっちかだ。そしてそんな生活をしてるうちに、なんだか物足りなさというか、寂しさを感じるようになってきた。無駄に部屋が広いせいもあると思うが。そしてその俺の思いが伝わったのかなんなのか(たぶんアルフレッドが伝えたんだと思うが)、時間がある時にウェインさんが「今日1日の出来事」を聞いてくれるようになったのだ。アルフレッドに伝えなくていいって言ったのに、気を使わせてしまって申し訳ない……。と最初はそう思っていたのだけど、ウェインさんと緊張せずに話す練習になるだろうと思い直すことにした。ウェインさんとの会話は、やっぱりアルフレッドとの会話よりも緊張した。けれど毎日のルーティーンに新しく組み込まれたその出来事は、間違いなく日々の寂しさを埋めていたと思う。そして、ウェインさんとの会話を初めてしばらく経ってからのことだった。
「ナマエ、今日は何してた?」
「あ、今日はアルフレッドと紅茶を飲んで、紅茶の淹れ方を、…美味しい紅茶の淹れ方を教わって、それからバリーと映画を観に行った」
「………」
いつも通り「今日1日の出来事」をウェインさんに話したら、何故かそれきり黙り込んでしまった。俺は何かまずいことを言ってしまっただろうかと内心ヒヤヒヤしながら恐る恐る声をかけてみる。
「……あの…ウェインさん?」
「………いつの間にそんなに仲良くなったんだ」
いや待って、何言ってるのか全然聞こえなかったんですけど。
「あの、」
「……ナマエ、俺のことは名前で呼べ」
「…………な、名前」
しばらくして返ってきた言葉はまさかの俺の予想の斜め上を行くものだった。名前?俺よりも何十歳も年上でしかもウェイン家の御曹司を名前で呼べというのか。正直ハードル高すぎるよウェインさん!まじか!呼ばなきゃダメなのか!と若干混乱しながらしばらく黙っていると、ウェインさんが「…まさか俺の名前を知らないわけじゃないよな?」と聞いてきた。いやまさかそんな!
「えっや、知ってます!ウェインさ、」
「…………」
いつもの癖でウェインさんと呼んでしまったら「ほう?」と言うように目を細められた。待って怖い。貫禄ありすぎて怖い。
「あー、と、ぶ、ブルース」
「よし」
若干つまりながら名前を呼んだらどこか満足げに頷かれた。なんだったんだ。
そして、ウェインさんの「名前を呼べ」事件から、数週間後。
ふわふわとした微睡みの中、優しく頭を撫でられた。ああ、もう少しで寝れそうだったのに。意識が段々と浮上して、俺はゆっくりと重たい瞼を開けた。
「すまない、起こしてしまった」
「…………ぁ、?」
ベッドサイドに座っていたのはウェインさんだった。俺はウェインさんに頭を撫でられていたのだろうか。きっとそうだよな、今もウェインさんの手袋をした手が俺の頭に触れてるし。
「ウェイン、さん」
「ああ」
確かめるように名前を呼ぶと、ウェインさんは薄く笑った。ウェインさんからは彼の香水の匂いに混じって冬の、寒い外の匂いがする。仕事だったのだろうか。今が何時かは分からないけど、でも、こんな夜遅くまで?相変わらず忙しい人だなと、寝起きのぼんやりとした頭で考えた。ああそうだ、何か言わないと……。
「おかえ………あ、」
言いかけた言葉を止めた。日本語でおかえりと言いそうになってしまった。違うだめだ、これじゃ通じない。ああ、英語でおかえりって、なんて言うんだっけ…。そもそも英語圏でおかえりっていう風習あったっけ…。
「…あい、ミスユー…?」
働かない頭で考えてとりあえず出した言葉がそれだった。のだけど、アイミスユーって、なんか違くないか?と言った後に思ったがまあいいかと思うことにした。まあ言いたいことは変わらないと思う。
「…何故疑問形なんだ」
ウェインさんは眉を顰めてそう聞いてきた。うーん、そうきたか。
「(おかえりって言いたいんだけど言葉が見つからないんだよな……)ぇ、と」
ウェインさんに返す言葉に詰まっていると、彼はふ、と微笑んだ。
「寂しかったんだろう?私がいなくて」
そんな感じのニュアンスの言葉を聞いて、俺はじ、とウェインさんの顔を見つめた。寂しかったのは、間違いない、と思う。思えば、ここ数日ウェインさんと顔を合わせることがなかった。最近ウェインさんと「今日1日の出来事」を話すようになって、それがしばらくなかったから、余計に。
「…だって、あなたの家広すぎて、部屋も広いし、ベッドも広いし、」
つらつらと色々理由を述べていたら、「ナマエ」と不意に名前を呼ばれた。
「…はい?」
「yesかnoか、どっちだ?」
「………」
そんなこと聞かれたら、それはまあ、
「………いえす」
こう言うしかないだろう。
俺のイエスという答えにウェインさんは満足げに笑う。ゆっくりと顔を近づけ、頬にキスをされた。ウェインさんの行動に意味もなくドキドキしてしまった。それに待ってほしい、無精髭がくすぐったい。
「ぁ、ちょ、ウェインさ、ん」
「ブルースと呼べと言ったろう」
耳元で響く低音の声がこそばゆくて思わず身じろいでしまった。ささやかな抵抗のつもりでウェインさんから距離を置こうと彼の胸に手を置いてみたが、手袋をした手にするりと握られた。だめだ。「ブルースと呼べ」と言われた時から、なんとなく距離が近いような気がする。
「ナマエ」
「ご、ごめんなさい、ブルースさん」
「Mrも付けなくていい」
「…ブルース、」
大きな手で頬を包まれて、ブラウンの力強い瞳に見つめられて、彼に逆らえる人なんているのだろうか。きっといない。
「…………よ、酔ってます?」
「酔ってない」
だから俺が「ブルース」と名前を呼んだ後に唇にキスされるのを逆らえなかったのも、キスされた後に思わずそう聞いてしまったのも、俺は悪くないと思う。
20161224