「ナマエ、出かけるぞ」
そう言って有無を言わさず車に乗せられた。
最近、ウェインさんは仲間を探している。バットマンと一緒に未曾有の悪と戦ってくれる、クラークさん−−、スーパーマンのような人たちを。どこに行くのかと聞いたら、フラッシュに会いに行く、とだけ答えてくれた。ニュースでも話題になるくらいだから俺でも知ってる。フラッシュ、よく分からないが、とりあえずめちゃくちゃ速いヒーローだ。
ウェインさんはそのフラッシュを勧誘しに行くのだろうが、何故俺も一緒に連れてきてくれたのだろうか。自分で言ってて悲しいけれど、英語もできないし何の能力もない俺が一緒に行っても、ただの足手まといにしかならないと思うのだが。そんなことを悶々と考えながら車窓から流れる景色をぼうっと見つめてしばらく。
「(ウェインさんいいのかな…こんな人の家?に勝手に上がり込んで…。)」
フラッシュが住んでるらしい家に着いたと思ったら、車から降りてウェインさんはすたすたと勝手に入っていってしまった。来いと言われたので俺も入ったが、完全に不法侵入だよなこれ…。電気が点いてないから見えにくいが、なんかすごい高そうな椅子に足組んで座ってるし…。めちゃくちゃリラックスしてるよこの人…。
それから数分も待たないうちに(俺はずっとそわそわきょろきょろしていた)電気が入る音がして、部屋が一気に明るくなる。思ったよりも全然広い部屋だ。見回してみると、パソコンのモニターや何やらよく分からない精密機械、それに本がたくさんある。
「バリー・アレン」
ウェインさんが視線を向けている先に顔を向けると、そこには眉を顰めてこちらを見ている男の人がいた。男の人というより、青年の方が正しいだろうか。
バリー・アレンと呼ばれた黒髪の青年は警戒しているのか緊張しているのか、早口で何やらまくし立てる。そりゃそうだよな、真っ暗闇の中自分の部屋の椅子に見知らぬ男が優雅に座っていたら誰だってそういう反応をするだろう。そしてどうやらウェインさんが座っていたのは彼が2番目にお気に入りの椅子だったらしい。俺が聞き取れたのはそこだけだった。
ウェインさんと青年の会話を頑張って聞き取っていると、ふと視界の端に紅いスーツが映り込む。フラッシュが着ているスーツだ。やっぱりこの人がフラッシュなんだろう。意外だ。俺よりも少し年上くらいだろうか、こんなに若いとは思わなかった。
あくまで自分がフラッシュであることを否定しようとしていた青年だが、それを遮るようにウェインさんが懐から取り出した武器を投げた。いや待て、投げた?!
「っウェインさ、」
止めようと声を出したが間に合うわけがない。このままじゃ彼に当たってしまう、そう思ったのに。
「………(あれ、)」
ちょっと待て、何が起きた?
ウェインさんが武器を投げたと思ったら、次の瞬間には青年がその武器を持っている。
ウェインさんは驚いたのと、それから感心したようにずいぶん速いんだな、と呟いた。
「…すげえ」
俺も思わず声に出てしまった。何が起きたのかさっぱり分からない。けれどとりあえず、今俺はめちゃくちゃすごいものを目にしたぞ。速すぎて見えなかったけど。
「Stop right there. …I'm in.」
目の前で目撃したフラッシュの能力にめちゃくちゃ感動していたら、いつの間にかウェインさんの勧誘は成功していたらしい、フラッシュはI'm inと笑顔で即答していた。いいのか。ずいぶん軽いな。同じことをウェインさんも思っていたらしく、良いのか?と戸惑っている。
「I need………friends.」
どうやらチームに入ると即答したのは友達が欲しいからのようだ。ヒーローも友達欲しがるんだな。なんだか急にフラッシュを身近に感じれてしまって、思わず少し笑みがこぼれた。ら、
「……」
ばっちり目が合ってしまった。
あ、やばい。そう思ってからじゃ遅かった。フラッシュはすたすたと俺の方に歩いてくる。待ってなんでこっち来るの!めちゃくちゃ目をキラキラさせてるんだけど!!めちゃくちゃテンパるからやめて!!
「Hey,」
「…ぁ、(ヤバい!)」
そんな俺の心の叫びが聞こえるはずもなく。フラッシュは俺を見て笑顔でなにやら聞いてきた。ちょっと待って欲しい。テンパってるお陰で何を言ったのか全然聞き取れなかった。ああもうテンパるとほんとに役に立たねえな俺のリスニング能力は!!
「あの、ええと、」
「あまり早口でまくし立てるな。ナマエは英語が得意じゃない」
めちゃくちゃ吃って視線をあちこち動かしていると、ウェインさんがそんな感じのことを言って助け船を出してくれた。あああとてもありがたい!そしてフラッシュには申し訳ない!!自分の英語の出来なさが恥ずかしくて耳が熱くなる。
「ご、ごめんなさい、」
俺の謝罪にフラッシュはOKと言ってくれたけれど、何と言おうか言葉を探しているみたいだった。ああどうしよう、困らせている。なんとかして自己紹介をしなければ。
「俺、俺はナマエです!」
とりあえず自分の名前を言おう、そう思って必死に口を開いたら、変に力が入って大声になってしまった。
「………ナマエ」
俺の名前を確かめるように呟いたフラッシュに、イエスと返す。
「その、よろしく、お願いします…」
名前、フラッシュの名前は…確かウェインさんはバリー・アレンと言っていた。ナイストゥーミートゥーと言った後にバリー、と名前を呼ぶと、フラッシュ…もといバリーは嬉しそうに笑った。はあ良かった。こちらこそよろしく、と差し出された手を握って握手をする。手が大きい。
「I want to get to know you better.」
俺の手を両手で握りながらバリーはそう言ってくれた。仲良くなりたい。そのフレーズが嬉しくて、そして少し信じられなくて、一瞬固まってしまう。だって、バリーが友達になってくれるのなら、ここで初めての友達ができるのだ。こんな嬉しいことはない。
「.…ah…Can we be friends?」
フリーズしていた俺を見て、バリーは仲良くなりたいというフレーズをわざわざ簡単にして言い直してくれた。申し訳ない、聞き取れなかったわけじゃないんだ、仲良くしたいって言ってくれたことに感動してただけで。嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。
「…イエス、ミートゥー」
「……うわ、っよろしくねナマエ!」
「へあっ?!」
頬が緩んだままそう言ったらバリーにぎゅっと抱きしめられた。それにびっくりして変な声が出てしまった。恥ずかしい。
帰り道。ケータイのチャットアプリに新しく登録された名前に嬉しくてニヤニヤしてしまう。それを傍目で見ていたのか、ウェインさんは友達ができて良かったなと言ってくれた。
「はい!連れてきてくれてありがとうございます!」
ウェインさんが連れてきてくれなかったらバリーと友達になれなかったから、本当に嬉しい。だからめちゃくちゃ笑顔でそう返したら、ウェインさんは何故か少し微妙な表情をして、そして俺の頭を撫でた。
20170301